光デバイス/発光ダイオード
40.チップの封止技術(方法)
発光ダイオードのチップを封止するには主として透明な樹脂が使われるのは前項で紹介した通りですが、どのような方法でチップを覆うのか、その方法についてこの項でまとめてみます。主な方法はつぎの3種類です。
1.ポッティング法
もっとも簡易な方法で、液状の樹脂を滴下する方法です。
図40-1に示すようにLEDチップを基板の上に固定した後(実際には電気配線も必要ですが図では示していません)、(a)のように液状の透明樹脂をノズルから滴下すると、樹脂液は(b)のようにチップと基板の上で表面張力により盛り上がるので、この性質を利用すればもっとも簡易にチップを封止できます(1)。
ただし、樹脂液の粘度が適度に調整されていないと、うまくいきません。とくに粘度が低すぎると液が盛り上がらずに流れて広がってしまい、チップを覆うことができなかったり、周囲の基板表面が樹脂液で汚れたりします。このため、ポッティングの場合はチップの周りに何らかの樹脂を堰き止める手段を設けた方がよいと言えます。
そこで通常はチップをくぼんだ部分のなかに配置し、くぼみを樹脂液で満たす方法がとられます。図40-2に示すように、基板の上に枠体を設け、その中にチップを固定します。この枠体は基板とは別の部材を貼り付ける場合もありますし、基板そのものを加工してへこんだ部分を作る場合もあります。多くの場合、図のように枠体の内側が傾斜面になっていて、LEDチップから横方向に出た光を上方に反射する反射体としての役目を兼ねています。
この枠体内に樹脂液を滴下します。滴下する樹脂の量が少な過ぎるとチップを十分に封止できませんし、多過ぎると枠体から溢れてしまいます。そこで一定量の液を滴下するためにディスペンサという装置がよく使われます。この装置は空気圧でノズルから樹脂を一定量ずつ押し出し、所定量の樹脂を滴下できます。
しかしそれでもこの方法の場合、樹脂の滴下量は多少変動します。封止樹脂の表面の形状は注いだ樹脂の量によって決まり、多すぎると上に凸の形になり、少ないと凹んだ形になってしまい、パッケージ後のパッケージの光学特性をいつも一定に保つのは難いという問題があります。このため樹脂の表面にパターンを投影し、その形状を撮影して樹脂量の多い少ないを判定する方法などが提案されています(2)。
2.塗布法
塗布法は透明樹脂を塗りつけてチップを覆う方法です。決められた範囲だけに塗布する技術は印刷技術と共通で、印刷法と呼ばれる場合もほぼ同様な方法と考えてよいと思われます。
図40-3に示すように基板に固定したLEDチップの周りに枠を作り、過剰な量の樹脂液をこの上に塗り、スキージ(squeegee)と呼ばれるヘラで表面の余分な樹脂を擦り取るという方法がよく採られます(3)。
この方法の場合は図のように多数のチップを一気に封止するのに適しています。この場合、そのままアレイとして使う場合もあり、枠の矢印で示した箇所を切断してチップ一つ一つのパッケージに分離する(個片化ということがあります)場合もあります。
塗布の場合も樹脂の粘度に注意する必要があります。柔らかすぎると塗布前に樹脂が流れてしまい、硬すぎると塗布したときにチップのワイヤ接続を壊してしまう恐れもあります。
3.成形法
砲弾型パッケージの透明樹脂はリードフレームの項で紹介した通り、成形法で作られます。リードフレームに固定し、ワイヤーボンドを終えたLEDチップを樹脂液を入れた砲弾型の容器(型)の中に挿入します。樹脂を加熱硬化した後、型から引き抜く(離型する)と、砲弾型の封止樹脂が完成します(35項参照)。
成形法は基板やリードフレームに固定したチップをそのまま成形型のなかに入れ、チップ周囲の樹脂を型のなかで固める方法です。普通の樹脂成形と違って、チップとそれを搭載したリードフレームなどの部材も成形型のなかに一緒に「挿入」して成形するので、「インサート成形」と呼ぶことがあります。
表面実装型パッケージに対しては、簡単には塗布の場合と同じようにチップの周りに成形型となる枠を作り、中に樹脂液を入れます。上記の例のようにこれだけでもよいですが、上から蓋を押し付ける(圧力をかける)場合もあります。この方法は押圧法とか圧縮成形法などと呼ばれます。その後、加熱して樹脂を固めた後、枠や蓋を取り除きます(離型)。
さらにトランスファー成形法という方法もよく使われます(4)。まず基板上にLEDチップをダイボンドし、ワイヤで電気配線します。この基板には反射枠も設けられています。この基板を図40-4に示すように上下に分かれる成形型のなかに入れます、別容器に入れてある樹脂液を型に設けた樹脂注入孔を通して型内に押し出します。その後、樹脂を硬化し、離型すれば封止されたパッケージが完成します。
この方法の場合、使用する透明樹脂は熱可塑性と呼ばれる種類が一般に使われます。この樹脂は加熱すると流動性をもち、冷やすと固まる性質をもっています。成形型に注入した後、樹脂を加熱して硬化させるより自然に冷却して固める方が簡単であるため、この種類が便利ですが、熱硬化性樹脂が使用できないわけではありません。
この他、樹脂の成形法では射出成形法という方法がよく使われています。この方法は樹脂液に圧力をかけて型内で勢いよく注入します。そのため型内のワイヤによる配線が壊れてしまう恐れがあり、チップの封止には向きません。
成形法の特徴は封止樹脂の外形が型の形通りにきちんと決まることです。封止樹脂にレンズ機能をもたせる場合などには有利な方法です。ただし成形用の金型を用意しなければならず、装置としてはやや大がかりになります。
「ポッティング(potting)」はやや耳慣れない語です。日本語で「樹脂盛り」ともいうようですが、これもあまり聞きません。ポットというとお茶などを注ぐ容器や魔法瓶をイメージしますが、辞書で"pot"を引くとビンとか壺という日本語が出てきて、日本語の「ポット」と少し意味にずれがあるようです。動詞の"pot"はこのようなビンや壺に中身を入れるという意味です。ポッティングはただ垂らすというより、容器を満たすという意味のようです。
(1)特開2000-315823号
(2)特開2011-192698号
(3)特開2003-046140号
(4)特開2006-324623号