光デバイス/発光ダイオード
38.フリップチップボンド
フリップチップボンドは半導体チップへ電気接続をする方法の一つです。この方法は半導体チップを固定するダイボンドの役割も兼ねているところがワイヤボンドとは異なります。
図38-1にそのイメージを示します。基板上の配線金属上にバンプと呼ばれる小さな金属の塊を設け、これとLEDチップの電極を接合します。この金属の塊のことをバンプ(bump)と呼びます。この場合も基板でなくリードフレーム上への接合も可能です。
これまでに取り上げてきたリードフレームとかワイヤボンドも同じですが、フリップチップボンドは初めはトランジスタや集積回路などの実装のために開発された技術です。この接合の場合、電極はチップの片側にある必要があります。このため発光ダイオードの場合は基板と反対側に発光を遮るものがなくなるという大きな利点が出てきます。
図38-2を見ながら、もう少し詳しく手順を説明します(1)。最初の工程はワイヤボンドのボールボンドと同じです。(a)のようにトーチと呼ばれる高圧電極をキャピラリの先端に近づけ、ワイヤ(代表的には金線)の先端にボールを作ります。その後、キャイラリをヒータのついたステージ上で加熱した基板の上方に移動させます。
そして(b)のようにキャピラリを基板の配線金属に押しつけ超音波をかけて圧着します。この後、(c)のようにキャピラリを上方に引き上げ、ワイヤを引き延ばさずに切ってしまいます。これで基板上にバンプができます。このようなバンプをスタッドバンプ(stud bump)と呼びます。
ついで図38-3のようにLEDチップをバンプのある基板上に運びます。チップを傷つけずに運ぶ手段としてよく使われるのが真空吸引によりチップを吸い着ける真空チャックです。
もともとバンプの間隔はチップ上の電極の間隔に合うようにしておき、運んできたチップをバンプの位置に合わせ、チップ表面の電極をバンプに押しつけ、さらに超音波をかけて接合させます。これによってチップは基板上に固定され、併せて電気的接続もできあがります。
つぎにバンプを使わない例を紹介しておきます。これは異方導電性接着剤という接着剤を利用する方法です(1)。この異方導電性接着剤とは、通常の導電性接着剤と同じように樹脂の接着剤に金属粉などの導電性粒子を混ぜたものですが、金属粉の添加量を調節して、そのままでは絶縁性であるようにしてあります。ところが圧力をかけると金属粉の間の距離が縮まって互いに接触するようになり、導電性となります。このような性質があるので、部分的に圧力をかければ、その部分だけを導電性にすることができます。
図38-4(a)のように配線金属を設けた基板のほぼ全面に異方導電性接着剤を塗布します。異方導電性接着剤は樹脂に導電性粒子が所定の濃度で混ぜたものです。これに(b)のように電極の側を下にしてLEDチップを押し付けます。電極と配線金属の間隔が他の部分より狭くなるため、この部分にもっとも強く圧力がかかります。このためこの部分にある導電性粒子が互いに接触し、この部分のみ導電性の領域が形成されて電気接続ができますが、その他の部分は絶縁性のままです。
上記のように電極直下の部分以外は絶縁性のままですが、接着剤の接着力はあるので、バンプではバンプ部分しかチップを固定する力がないのに対して、全面にわたって接着力がはたらき固定がより安定します。つまりほとんど接着剤によるダイボンドを同じような工程でフリップチップボンドができる優れた方法です。
フリップチップは英語の綴りではflip chipですが、どういう意味でしょうか。"flip"という単語を辞書で引いてみると、まず「はじく」とか「ポンと打つ」とかいった意味が出てきますが、そのつぎに「裏返す」とか「ひくりかえす」という意味があげられています。どうやらチップを裏返して接着するというのがフリップチップの意味のようです。
またバンプ(bump)はいろいろな意味で使われるようですが、ここでは「こぶ」とか「出っ張り」といった意味と思われます。スタッドバンプのスタッド(stud)もいろいろな意味があるようですが、ここでは鋲(ビョウ)という意味で、スタッドバンプが地面に打つ鋲に似ているので名付けられたと思われます。
特開2000-164636 号