光デバイス/発光ダイオード

34.ダイボンド工程

 半導体デバイスが作り込まれた半導体の小片のことをチップまたはダイと言います。半導体デバイスのパッケージを形成するためにはまずこのチップまたはダイを台の上にしっかり固定しなければなりません。この工程のことをダイボンドまたはダイボンディングと言います(チップボンドという語は使いません)。

 この工程がうまくいかないと、大きく分けて二つの問題が起こります。一つは製造時に不良品が多くできてしまうという問題です。つまり歩留まりの問題です。もう一つは長時間使用後に予定より早く故障が発生する問題です。つまり信頼性の問題です。いくつか具体的な問題をあげてみます。

(a)チップの剥がれ 接着力不足
(b)電気抵抗の増大、または短絡の発生
(c)チップの位置ずれ

 チップを搭載する基台となる部分が絶縁体の基板である場合は、その表面にダイパッドなどと呼ばれる金属パターンが設けられます(前項参照)。ここにチップを載せて接着固定します。接着するための材料ははんだや導電性接着剤です。はんだは室温では固体ですからダイパッド上にそのまま塗布することはできません。塗布用の材料としてはんだの粉末を樹脂に混ぜたはんだペーストなどといった製品があります。いずれにしても最終的に接着固定するためには多くの場合、加熱や加圧が必要です。

 しかしチップ表面の材料、ダイパッドの材料と接着剤の組み合わせが悪いと接合がうまくいきません。例えばアルミニウムに一般のはんだは付着しません。また銅にははんだがよく着きますが、表面が酸化しているとよく着かなくなります。

 固体表面に液体がなじむかどうかを「濡れ性」という語で表すことがあります。「濡れない」というのは弾いたようになってなじまないということです。濡れ性の悪い材料の組み合わせははじめから避けなければいけませんが、表面のサビ(酸化)や汚れを取り除いて濡れ性を確保することも重要で、これによってダイボンドの歩留まりが向上できます。

 また、はんだを溶融したとき、融けたはんだが流れて動いてしまう場合があります。ダイパッド上からはんだが流れて、接合部分にはんだが十分ない状態になってしまうと当然接着は十分にできないことになります。

 これを防ぐ工夫として、周囲にダムのように流れを堰き止める部分を作る方法があります。ダイパッドのチップを搭載する部分の周囲にはんだの流れを堰き止める凸部を設けたり、チップを搭載する部分を窪ませるなどの方法があります。またはんだの濡れ性を利用し、濡れ性の低い部分をダイパッドの表面のチップ搭載部の周囲に設ける方法もあります(1)。酸化アルニウムなどの膜をこの部分に着けることによりはんだを流れにくくすることができます。図34-1(a)はこの場合のチップ搭載部の断面図です。

 ただこのような堰き止め構造を作ると、堰き止められたはんだが盛り上がってしまう場合があります。この盛り上がったはんだがチップ側面に触れると、pn接合が短絡してしまう恐れが出てきます(上記(b)の問題)。そこで図34-1(b)のようにダイパッドの周囲に凹んだ部分を作り、そこに余分のはんだを流れ込ませ溜めるようにする方法もあります(2)。またダイパッドの形を工夫して余分なはんだを逃がす方法もあります(3)

 (c)の問題はチップがダイパッドの上にうまく固定されず、位置ずれが起きる問題です。一般の発光ダイオードの場合、位置ずれは多少あってもそれほど問題にはならないのですが、ずれが大きいとパッケージから光がうまく取り出せないなどの問題が起きます。

 図34-2のように上面から見てダイパッドをチップとおおよそ同面積、同形状にしておけば、融けたはんだの上にチップを置いたとき、チップが図のようにダイパッドの辺と平行でない位置になっても、融けたはんだの表面張力がはたらくので、ダイパッドの辺と平行な位置に戻す力がはたらきます(3)。この都合の良い効果を「セルフアライン効果」ということがあります。この言葉は位置合わせに関して他の分野でも使われていますが、要は自動的に位置合わせができるという意味です。これもより効果を出すためにダイパッドの形状を工夫するなどの方策が取られます。

 これまで説明した問題は大方、パッケージ製造時の歩留まりの改善に関するものでした。一方でパッケージ部品を長時間使用後、チップの剥がれが生じたり、あるいは電気的接触が悪くなってしまうといった信頼性上の問題もあります。

 樹脂接着剤あるいは導電性接着剤のバインダーとしての樹脂が十分な耐熱性をもっていないと、動作時にチップが出す熱で樹脂が劣化し、接着力が失われてしまうことがあります。はんだの場合はチップが出す熱程度では劣化は起きないはずですが、半導体チップと基板の間のはんだ中に空孔が入っているような場合には加熱、冷却が繰り返されるうちにはんだが金属疲労を起こす恐れがあります。

 このような空孔の発生を防止する対策もいくつかあります(4)。半導体チップと基板の間に挟むはんだシートの中央部を厚くして、はんだを溶融するとき、はんだシートの中央部分が基板とチップに接するようにすると、この中央部分にまず熱が伝わって中央部から先にはんだが融け、次第に外側に向かって融けていくことになります。こうするとはんだ層内の空孔は外へ押しだされ、内部に残りにくいとされています。

 以上、いくつか例をあげましたが、これはほんの一部で、また必ずしも代表的な例かどうかもわかりません。ダイボンド工程の歩留まり改善とダイボンドの信頼性向上のための技術は多岐にわたっています。しかし構造を複雑にすればするほど、製造工程が煩雑になります。はんだの流れ出しなどは最初にはんだの量を制限すれば特別な構造を作る必要はないかもしれません。性能と製造コストの兼ね合いでもっともよい構造を決める必要があります。このような技術はあまり論文に書かれることがなく、特許が有益な情報源になります。

 余談ですが、「ダイ」という語、英語では"die"で、「死ぬ」という意味の語と同じ綴りですが、語としては別物のようです。dieの複数形は変則でdiceです。ダイスといえばサイコロの意味で日本語でも使います。「ダイ」の意味は恐らくサイコロのような小さな塊といったところから来ているように思われます。なお、同じ「ダイ」には"dye"という綴りの語もあります。これは色素という意味です。

 ついでに「チップ」の綴りは"chip"で、小片という意味です。日本語では"tip"もチップと発音しますが、こちらは海外でのいわゆる心付けの意味や、尖ったものの「先端」という意味もあります。「チップ」や「ダイ」といった短いカタカナの語はどうも勘違い、思い違いを起こしやすいようです。

 この他、最近はあまり見なくなりましたが、ペレット(pellet)という言い方もありました。この語は辞書を引くと小さな球状のもの、弾丸などを意味するようで、平板状で四角い半導体とは少しイメージが合いませんが、小片という意味かと思われます。

(1)特開平8-23002号
(2)特開昭56-64483号
(3)特開2003-264267号
(4)特開平8-326141号