光デバイス/発光ダイオード
33,ダイボンド用接着部材-はんだ
半導体チップをパッケージ内に接着固定することをダイボンド(ダイボンディング)と言います。発光ダイオードに限らず、半導体デバイスをパッケージに収めるためには必須の工程です。
まず基板上に発光ダイオードをダイボンドする構造の一例を図33-1を使って説明します。基板にはプリント配線などによって配線金属層が左右一対設けられています。一方の側の配線金属層の先端部、基板中央にチップを載せる部分であるダイパッドが設けられています。このダイパッドにはんだペーストを塗ります。ここにLEDチップを貼り付け、加熱することによって固定します。これでLEDチップ下面の電極と配線金属層が導通します。
このようにダイボンドはチップを支える台となる部材(基板やリードフレームなど)にチップをどういう方法で接着するかが課題となります。前項でも触れたようにチップの固定には図のように電気的接続を兼ねる場合と兼ねない場合とがあり、どちらの場合かによって当然、接着部材は異なってきます。
電気接続を必要としない場合は、接着部材に一般的な樹脂接着剤や低融点ガラスなどの無機接着剤を使うことができます。ただし他の工程で加熱が必要な場合などは、高温にしても劣化しないような耐熱性の高い接着剤を選ぶ必要があります。接着部材自身にとくに絶縁性を必要としないならば、以下に説明する導電性のある接着部材をこの場合にも使うことができます。
一方、固定と電気接続を兼ねる場合(図33-1はこちらの例です)は、導電性をもった接着部材を用いなければなりません。導電性のある接着部材は大きく分けて金属のはんだと樹脂ベースの導電性接着剤があります。ここでははんだについて少し詳しくみておきましょう。
「はんだ」は「半田」と漢字で書いたり、「ハンダ」とカタカナで書く場合もあり、表記はまちまちです(英語ではsolder)。学術用語としてはひらがなの「はんだ」を使います。この言葉の由来は人名か地名からきているように思われますが、どうもはっきりしないようです。
はんだ付けの上位の概念に鑞付け(ろうづけ)という技術があります。これは接合しようとする金属の間にそれより融点の低い金属を溶融させてはさみ、金属表面との付着力を利用して接合する技術です。この付着力は金属間の化学反応や相互拡散による寄与はあまりなく、基本的には物理的な原子間の引力によると考えられています。
このため、接合する金属の表面が酸化したり汚れていたりすると、十分な付着力が得られません。そこで、フラックスと呼ばれる溶剤を接合面に塗布して酸化を防ぐことが行われます。古くからこのフラックスに自然物の松ヤニ(ロジン)が使われましたが。現在ではこれに加えて酸化を防ぐ塩素などハロゲンを含む合成化学物質が使われています。
図33-1の例に出てきたはんだペーストというのははんだを細かい粒子にしてこれをフラックスに混ぜ、ペースト状にしたものです。フラックスを別に用意して塗布する必要がなく、はんだを必要な場所に塗布するだけの場合は加熱溶融する必要がないという利点があります。
話をはんだ材料に戻します。上記の融点の低い金属のことを鑞材といいます。この鑞材のうち、融点が450℃より低いものを軟鑞と呼び、その通称として「はんだ」という用語が使われています。なお、融点が450℃より高い硬鑞の代表には銀があり、銀蝋付けは古くから使われています。
代表的なはんだには鉛(Pb)とスズ(錫、Sn)の合金がありますが、ダイボンドにはあまり使われません。ダイボンド用としてよく使われるのは金とスズの合金、Au-Snです。半導体の電極には金がよく使われ、それとのなじみの良さがよく使われる理由と思われます。
Pb-SnもAu-Snもともに共晶合金という部類の合金です。例えばPb-Sn合金を作る場合、鉛とスズをそれぞれ融かした液体を混ぜ合わせると、液体としては均一に混じり合います。ところがこれを冷やして固体にすると、鉛とスズは化合したりせず、それぞれが結晶となり、それぞれの微小な結晶が混じり合った状態になります。このような合金を共晶合金と言います。2つの金属の割合(組成)は通常、自由に選べます。また第3、またはそれ以上の種類の金属を含むものもつくることができます。
共晶合金の重要な特徴は種々の組成の融点を測定すると、ある組成で融点が最小になる特性をもっていることです。この融点が最小となる組成を共晶点と呼びます。Pb-SnではSnが63%のときが共晶点で、そのときの融点は182℃であることが知られています。
Au-Sn合金の特性について詳しくみてみましょう。図33-2はこの合金の特性を縦軸の温度と横のSn組成(重量%)の関係で示しています(1)。この特性図から温度と組成を指定したとき、その材料が気相、液相、固相、つまり気体、液体、固体のいずれの状態にあるのかを読み取ることができます。このことからこの特性図のことを相図と呼んでいます。
はんだの場合、気相は関係がないので、図33-2の曲線は液相(上側)と固相(下側)の境、すなわち各組成での融点を示しています。図はSn、20%、Au、80%のとき、融点が最低の282℃になる共晶合金の特性を示しています。この融点ははんだとしてはかなり高い部類ですが、半導体に対して悪影響が出るほど高くはないと言えるでしょう。
最後にはんだ材料の規格について触れておきます。これは「はんだ-化学成分及び形状」というはんだの材料を規定する日本工業規格です(2)。これをみるとはんだは鉛を含むものと含まないもの(鉛フリー)に大きく分けられています。これは鉛の毒性が問題になり、はんだから鉛を排除しようという機運が高まったことによります。ただし代替品の金属には毒性がまったくないのかどうかは必ずしも明らかではありません。
さてこの規格に挙げられている鉛フリーはんだには上記のAu-Snは含まれていません。挙げられているのは融点が250℃より低いもので、いずれもSnを中心とするものです。融点が150℃より低いものを除くと、Snをおよそ90%以上含むものばかりで、はんだにとってスズが極めて重要な金属であることがわかります。
Snに加えられる金属としては融点が比較的高いものとしてアンチモン(Sb)、銅(Cu)、銀(AG)が、融点が低いものとしては亜鉛(Zn)、ビスマス(Bi)、インジウム(In)が挙げられ、Snに対してこれら1種かまたは2種を組み合わせた成分が規定されています。
もちろんこれらのはんだもダイボンドに使えないことはなく、実際に使われている場合もあると思われます。
(1)特開2008-258459号
(2)JIS Z 3282;2006