光デバイス/発光ダイオード
14.表面凹凸
LEDの発光層で発光した光が電極などで遮られるのを防ぐ手立てをいろいろ紹介しましたが、遮るものがない部分から光が素子の外へ出るときにも問題があります。
LEDの光は半導体層で発生し、普通は人間の眼がある空気中に出ます。その間に光は素子を保護するための樹脂層などを通過する場合も多いですが、水中で使うなど特殊な場合を除けば、最後は空気中に出ます。
空気の屈折率は1ですが、半導体の屈折率は3前後とかなり大きい値です。透明樹脂の屈折率はこの中間でやや空気に近い1.5前後の値です。このためLEDでは屈折率の大きい半導体媒体からそれよりかなり屈折率の小さい媒体へ光を出していることになります。
図14-1はLEDを模式的に示した図で、上側の面が出射面でその他の側面、下面は反射面になっているとします。図14-1(a)のように、発光層から発した光のうち、出射面への入射角が大きい、つまり出射面に対して浅い角度で入射した光は、全反射が起こって屈折率の小さい媒体(空気)側へは出られません。LEDの発光は発光層から広い範囲の角度で出射しますから、そのかなりの部分が外へ出られないことになります。
外部へ出る光をできるだけ増やすために、全反射をできるだけ減らす試みはいろいろなされています。すぐに思い付くのは出射面を凹凸にすることでしょう。図14-1(b)のように出射面を荒らして粗面にすると、表面に到達する光は様々な方向に反射されます。光は表面に達するたびにいろいろな方向に向きを変えるので、1回で外へ出られなくても素子の底面や側面で反射を繰り返し、いずれは外に出られるようになると考えられます。
この方法が有効なのは素子内で反射された光の強度が減衰しない場合です。しかし普通の半導体層内では多かれ少なかれ光は吸収されて強度が低下してしまいます。長い光路を経た後、ようやく外に出たときは強度が弱くなっているので、最初の目的を果たせないことになってしまいます。このように光を光線と考えるのでは問題は本質的に解決できません。
全反射を減らす手段としては界面の屈折率変化を急激でなく緩やかに変えることが考えられます。しかし例えば屈折率が連続的に徐々に変わる層を成膜するのはあまり容易ではありません。その替わりに階段状に屈折率を変えてもいいのですが、これも多層の膜を成膜する必要があり、手間がかかります。
ここでまた表面に凹凸を作る方法が再登場します。光の波長に比べて大きい凹凸があると光は光線とみなせ、図14-1で説明したように表面の角度によって全反射の方向が決まります。しかし凹凸が波長より小さいと光は凹凸面があるのを感じず、平均的な屈折率の層があると感じます。
すると図14-2のように先の尖った円錐のような形の凹凸を表面に作ると、円錐の底面に近い部分では平均の屈折率は表面の層の屈折率に近く、上の円錐の頂上に近い部分では平均の屈折率は空気(周囲物質)の屈折率に近づきます。この界面付近ではその両側の屈折率の平均の屈折率の層があるのと同じ状態ができます。
この具体例が例えば文献(1)に示されています。半導体層の表面に直接凹凸を形成した例も書かれていますが、この例では半導体のコンタクト層の表面に樹脂にTiO2の粉末を混ぜて屈折率を2に調整した半導体(屈折率:3.5)と空気の中間の屈折率をもつ層を準備し、そこに凹凸を作っています。この凹凸は樹脂に型押しをする方法で作れますから、簡単です。
この例はInAlGaP系の緑色LEDですが、凹凸の高さによって光の取り出し効率が変わり、凹凸の高さが発光波長より小さい200nmから500nmの範囲で、効率は凹凸がない場合約2倍に達したと書かれています。凹凸の周期についてはあまり詳しく書かれていませんが、発光波長の1/2以下とするとなっています。このような微小な凹凸のことをモスアイと呼ぶことがあります。モスアイ(moth-eye)とは「虫の眼」という意味で、微小な凹凸を昆虫の複眼に見立てたものです。
さらに、凹凸は素子の主表面だけでなく、側面などにも設けることができるので、さらに光を取り出せることになります(2)。
(1)特開2003-174191号
(2)例えば特開2000-196141号