光デバイス/発光ダイオード

13.共振型発光ダイオード

  LEDの層構造のなかに反射層を設けて光出力を向上させるという前項のテーマとのつながりで、少し特殊過ぎるかも知れませんが、共振型LEDを紹介しておきます。

 このLEDの構造の基本は、図13-1のように活性層(発光層)の両側に反射層を設け、光共振器を構成したものです(1)。共振器長Lは活性層中での発光波長の1/2程度に設定します。つまり図13-1のように共振した波の「腹」が活性層の位置にくるようにします。

 この構造をみると垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)と同じように見えますが、レーザ発振はさせない発光ダイオードです。VCSELの場合はレーザ発振をさせるために共振器を形成する反射鏡は両側とも反射率を99%以上と高くする必要がありましたが、レーザ発振をさせる必要がないならばその必要はなく、少なくとも光出射側の反射率は低くして光の取り出しを大きくします。またVCSELでは必須の強い電流狭窄はLEDでは必ずしも必要ありません。

 光を多く取り出すためなら上部反射鏡がない前項の構造でよいわけで、共振器構造を採用する必要はなさそうに思われます。共振器構造に何か良い効果があるのでしょうか。これは上記特許にも簡単に言及されていますが、共振器QED(cavity quantum electrodynamics)効果と呼ばれる効果です。この効果を言葉で説明するのは難しいのですが、自然放出源を共振器中に置いて共振を生じさせると、外部に放出される光が増強されるという効果です。

 この効果自体は古くから知られていましたが(別途理論を取り上げます)、初めて発光素子への適用が考えられたのは1990年代初頭と思われます。日本のNTTによる1990年の特許出願(2)、アメリカのAT&Tによる1991年の特許出願(アメリカ)(3)などがそれに相当します。両方とも通信会社による出願であり、最初は通信用光源としてのLEDの応用が意図されたと思われます。

 具体的な利点は後者の明細書につぎの3点が挙げられています。第1には発光はその波長が共振波長となったとき増強されるという上記の共振器OED効果です。第2は後部反射鏡により出射光強度が高められる点です。第3は共振器を使っていることにより、スペクトル線幅が普通のLEDより狭くなる点です。高出力、狭線幅という特徴は通信用光源に適しています。共振型は応答も高速化することが期待され、これも通信用に適しています。

 図13-2は文献(1)に載っている発光スペクトルの例ですが、共振型の場合、曲線a、b(両者は共振器長Lが異なる)のようにかなり狭いスペクトル線幅が得られます。と書かれた曲線は単一量子井戸活性層自身の発光スペクトルで、共振型でないLED発光のスペクトルに近いと考えられますが、このようにかなり広いスペクトルの広がりになることがわかります。



最後に用語について少し触れておきます。上記のAT&Tの特許ではこのタイプのLEDのことをresonant cavity LED(RCLED)と呼んでいます。日本出願ではこれが「共振空洞LED」と訳され、以後この名称が使われることが多いようです。"cavity"を一般用語として訳すと「空洞」となるかもしれませんが、ここでこの訳語を使うのは不適当と思われます。"Resonant cavity"は単に「共振器」という意味で、NTT特許のように「キャビティ」単独でも「共振器」の意味に使います。

 そこでこの項目の表題は「共振型発光ダイオード」としました。また共振器長が1波長程度以下のような共振器を"micro-cavity"(微小共振器)と呼ぶことがあります。そこで微小共振器(またはマイクロキャビティ)LEDなどと呼ぶこともあります。

(1)特開平09-260783号

(2)特開平03-229480号

(3)特開平05-275739号