光デバイス/発光ダイオード

15.発光波長

 ここからLEDの発光波長の話に移ります。LEDの発光色は可視光全域とその両外側の赤外、紫外域にわたり、今や発光できない波長域はほとんどなくなりました。実用的に使われる発光層の半導体材料もほぼ固まってきました。

 図15-1は発光層の材料がカバーするLEDの発光色の範囲の概要を示しています。横軸には光のエネルギー(単位:電子ボルトeV)とそれに対応する波長(単位:μm)、さらにそれに対応する光の色の概略が示されています。エネルギーと波長の換算は次式で行えます。
\[E \left(eV\right)=\frac{1.24}{\lambda \left(\mu m \right)} \]

 特許にもこのような図が載っています(1)

 波長の長い赤外域では、波長1μmより長い範囲に使われるのはInGaAsPの四元混晶系で、InP基板上に作られるものにほぼ限られています。四元系の組成は基本的にInPに格子整合するように決められますが、これは一つの組成に決まるわけではなく、連続的に選択できます。そのためInPに対応する約920nmから1,6μmくらいまでの発光が可能で、光ファイバ通信で使われる波長の1.3μm帶、1.55μm帶もカバーされます。この四元系は組成を調整すればGaAs基板に格子整合させることもできますが、その場合はより短波長の発光となり、あまり存在意義がありません。

 波長が1μmより短い近赤外域から赤色の発光にはAlGaAs系が使われます。これはGaAs基板に格子整合した系です。GaAsの発光は870nm程度で、Al組成を増やすと発光は短波長になりますが、AlAsに近づくにつれ、発光効率が低下します。大体700nmの赤色くらいまでが限度です。なお、中心波長が780nmであっても発光スペクトルは広がっていますので、赤色が視認できるのが普通です。

 赤色をより効率的に発光できるのはAlGaInPの四元系です。通常はGaAs基板に格子整合する組成で使われます。この場合、640nm前後の赤色から燈色(600nm前後)や黄色(580nm前後)までの発光が可能です。GaAsに格子整合する条件を外せば、原理的にはInPに相当する920nm程度までの赤外域の発光が可能です。

 GaPとGaAsPの三元系はLEDの発明の項で紹介しましたが、可視光LEDとして初めて使われた材料です。基板としてはGaPかGaAsが用いられますが、基本的に格子整合しない状態となります。発光色は赤色から黄色で、上記のAlGaInP系と重なります。GaPは黄緑色(565nm)の発光が可能で、1990年代にGaN系が開発されるまでは実用上もっとも短波長の発光を担っていました。

 もっとも遅く実用化したAlGaInN系はInGaNを用いた470nm前後の青色発光から近年長波長側に波長範囲を広げています。InGaNは青から緑にかけての長波長側の発光が可能です。InNのバンドギャップは赤色に相当しますが、実際に発光が可能なのは540nm程度の緑色までで黄緑色は難しいのが現状です。一方、400nmより短い紫から紫外域にかけてはGaNあるいはAlGaNにより発光が可能で、200nm台の紫外光源も登場しているようです。

 GaN系はGaNのバルク結晶ができないことからサファイアなどの格子整合せずかつ材料として異質な基板が使われてきました。最近は厚くエピタキシャル成長したGaN結晶を自立基板として使うこともなされるようになってきましたが、その場合でもInやAlが含まれる層とは格子整合しません。そこでこの系では格子整合しないことを前提に高品質の結晶を得るいろいろな工夫がなされています。

 以下では各色の実用的なLEDがそれぞれ固まってきた理由について考えます。発光波長は半導体発光層のバンドギャップエネルギーによって基本的には決まりますが、Ⅲ-Ⅴ族やⅡ-Ⅵ族の化合物半導体は混晶を作るという手段が使えるので、発光波長をかなり自由に設定することができます。しかし実用化のためにはその他にも制約条件があり、実用的な材料が選ばれてきたのにはそれなりの理由があります。それを考えてみることはLEDを理解するうえで重要と思われます。

 LEDは近年、消費電力が少なく寿命が長い照明光源として白色電球を置き換えつつあります。LEDの一つの発光層からの発光は上記のように基本的に単一波長に近い狭い波長範囲のスペクトルをもっています。照明光源としての白色光を直接発光することはできません。

 3つのLEDを使えば光の三原色を用意することができますから、これを混色して白色光を得ることができます。またLEDを3個も使わず、1個だけで白色を得る方法もあります。これは蛍光物質を使って波長を変換する方法です。このような照明用の白色光源についても後述したいと思います。

(1)例えば特開平06-37355号