光デバイス/半導体レーザ

57.照明、表示装置、その他

(1)照明装置  レーザ光の強い光は照度の高い照明に利用することができます。例えば、自動車などの車両の前照灯(ヘッドランプ)は室内照明などに比べると強い光が要求されるので、発光ダイオードより半導体レーザを使う方が望ましいと言えます。

 このような照明には白色光が必要で、いかにして白色光を得るかが問題となりますが、これは発光ダイオードの場合同様、二つの方法があります。一つはRGB3色の半導体レーザを用意し、3色を混合することにより白色を得る方法です(1)。もう一つは青色光など短波長の光を蛍光体などの波長変換部材によって黄色などに波長変換し、元の青色光と混合することにより白色を得る方法です(2)

 3色を混合する場合にはそのための光学系が必要で、光ファイバを使って3色の半導体レーザ光をそれぞれ導光した後、合流させたり(1)、半透鏡を組み合わせて合波する方法などがあります。波長変換により白色光を得る場合は図57-1に示すように青色光を波長変換部材(蛍光体)に照射します。白色光に変換された後、曲面鏡などによって指向性を付与します。

(2)投影型表示装置  液晶表示装置のように表示面に多数の画素を配列し、これによって画像を表示する表示装置とは異なり、画素を等して画像を形成した後、これをスクリーンに投影する方式の表示装置(3)の光源には発光強度の大きい半導体レーザが適しています。

 このような表示装置はプロジェクタと呼ばれますが、かつてはスライドプロジェクタという透明なスライド写真の画像を後方からランプ光源によって投影する装置がありましたが、原理的にはこれと同じで、図57-2に示すようにスライドの替わりに液晶シャッタなどの空間変調素子を画像情報によって制御することによって画像を形成し、光源をレーザ光に変えた点が異なると言えます。

 スライド写真と違って液晶シャッタは開閉のデジタル動作ですから、カラー画像の投影にはRGB(赤緑青)の3原色の光源からの光を各色専用のシャッタを通し、これをダイクロイックプリズムによって合成し、カラー画像を再現しています。

 画像は普通はスクリーン上に投影され表示されますから、もとの画像表示素子より大きく拡大することができます。大きな建造物の表面に投影するプロジェクションマッピングも原理的には同じですが、このレベルになると光源はレーザでないと無理かもしれません。

 このような応用の場合、レーザ光は干渉性があるため問題が生じます。これはスペックルノイズと呼ばれる画像上にちらつきのようなノイズが見えることです。これは図57-3に示すように、干渉性の光が細かい凹凸があるスクリーンに照射されると、表面で乱反射され、それぞれの反射光がランダムに干渉するため空間的に光に強弱ができるためと考えられます(4)

 このスペックルノイズを防ぐ方法はいろいろ提案されています。スクリーンを機械的に振動させれば乱反射が時間的に平均化され干渉が起きにくくなります。しかしこのために特殊な機構をもつスクリーンを用意しなければならず、あまり合理的ではありません。やはり光源側で干渉性を減らす方がよいと言え、前項で触れたような駆動電流に高周波を重畳する方法や自励発振などが考えられます(4)。38項で説明したスーパールミネッセントダイオードもまさに干渉性を除いた光源であり、スペックルノイズの防止ができる光源と言えます(3)

 (3)バーコード読取装置  最近は多くのお店で商品の価格をバーコードから読み取るようになり、その他いろいろな目的でバーコードが使われるようになっています。このバーコードの読み取りにもレーザ光が使われています。  バーコード読取装置の原理はつぎのようなものです。半導体レーザから出射した光をレーザプリンタと同じように走査してバーコード上に照射します。そのとき反射光はバーコードにしたがって強弱が付きますから、これを受光素子で受けて電気信号に変えます(5)

 この装置もレーザは別に半導体レーザでなくてもよく、スーパーなどの据置型の読取装置ではHe-Neレーザを使っているものもありました。しかし手持ちの読取装置などでは小さい半導体レーザが必須と思われます。

(4)レーザポインタ  資料をスクリーンに写してプレゼンテーションをするときなどに、指し棒の代わりにレーザポインタがよく使われるようになっています。これは単純に直進性のよいレーザ光を利用しているだけですが、パソコンの制御と組み合わせたりしていろいろな機能をもった製品が開発されています(6)

 構造は簡単なものです(7)。ボールペンなどより少し太いくらいのケースに乾電池(普通2本、3V)と半導体レーザ、その駆動回路が入っています。半導体レーザの出射光は広がりますから、集光用のレンズを用いています。

 発光色は赤色のものが多いですが、緑色や青色のものもあります。赤色のものは波長が650nm前後でAlGaInP系の半導体レーザが使われていると思われます。緑色のものは波長がおよそ530nmで、これにはInGaNを活性層にしたGaN系が使われていると思われます。電池である程度長時間動作しなければならないので、しきい電流値が小さいことが必要で、量子井戸レーザが使われているようです。  このレーザポインタはこのようにかなり性能のよい半導体レーザが駆動回路付きで簡単に入手できるため、実験用の手軽なレーザ光源としても利用できます。光の干渉実験などのデモンストレーションが簡単に行えるので、そのような利用価値もあります。

 レーザ光が装置内で使われる場合は、使用する人が光を見ることはほとんどないですが、レーザポインタは空中に光を放射するところが違います。レーザの強い光は目に入ると障害を起こす恐れがあるので、安全に注意する必要があります。レーザポインタの出力は1mW以下程度と安全基準に沿うように必要最小限に抑えられています。それでも可視光は目の水晶体などで吸収されることがなく網膜に達してしまうので危険です。出射部を直接のぞき込むようなことは避けるべきです。

 以上が大体、我々の身の回りで使われている半導体レーザの例ですが、出力の増大など特性の改善は進んでおり、特殊な用途を含めると半導体レーザは非常に広い範囲で使われるようになっています。

(1)特開2012-009354号

(2)特開2013-191479号

(3)特開2011-061075号

(4)特開2013-211307号

(5)特開平09-305692号

(6)特開2001-350119号

(7)特開平04-003108号

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