光デバイス/半導体レーザ

42.単一縦モードレーザ

(1)DBRレーザ ファブリ-ペロー型、つまり2枚の反射鏡で挟まれた光共振器を使ったタイプの半導体レーザは縦モードが多モードになりやすく、とくに電流をオン、オフする(変調する)とほとんど多モード発振になってしまいます。べつにそれでも構わない使用目的なら気にしなくてよいのですが、光通信などの目的ではわずかでも波長が変化しては困ります。

 そこで前項で説明した回折格子を反射鏡の代わりに使うという考えが出てきました。まず分かりやすいのは、活性層の両端の反射鏡をそのまま回折格子に置き換える構造です。ただ回折格子の場合、反射鏡があった面に凹凸を作り、その面に垂直に光を当てても回折の効果は出ません。

 そこで活性層の導波路の延長上の導波路面に凹凸を作ることが考えられました。この場合は回折格子の真横から光が入射しますが、この光を反射して元へ戻すことができます。このタイプの半導体レーザは図42-1のような構造となります(1)

 同図で活性層のすぐ下にガイド層があり、活性層とガイド層の両側にクラッド層があります。活性層から上の層は両端面に近い部分が除去され、露出したガイド層部分の表面に回折格子が設けられています。また中央部分の上部には電極が設けられ、活性層に電流が注入できるようになっています。

 活性層で発光した光はガイド層を伝搬し、両端の回折格子で一部が反射され電流注入部に戻り増幅されることになります。前項で説明したように回折格子から決められた方向に反射するのは一つの波長(極めて狭い波長域)の光だけですから、レーザ光の波長は一定になります。

 このようなレーザを分布反射型レーザと呼びます。反射鏡のようにある面で反射されるのでなく、回折格子の全体にわたって反射が起きるので「分布」という言葉がついています。回折格子を形成する層、位置にはいろいろ変形があり、両端でなく片側のみ回折格子を設けても動作は可能です。両端に回折格子がある場合は、一部回折格子を透過する光を出射光としますが、回折格子が片側のみの場合は回折格子のない側から出射光を得ることになります。

 このレーザは別名DBRレーザとも呼ばれます。これは”Distributed Bragg Reflector”の略で、直訳すれば「分布ブラッグ反射」となります。「ブラッグ」は人名でブラッグの法則で知られています。この法則は結晶に光(X線)を当てたときの回折角に関するものですが、屈折率の周期構造である回折格子の場合にも当てはまるため、回折格子による反射を普通の反射鏡による反射と区別してブラッグ反射と呼んでいます。日本語ではあえて「ブラッグ」を入れずに分布反射型と呼ぶのが標準的です。

(2)DFBレーザ  もう一つ別のタイプの単一縦モードレーザがあります。DBRレーザは電流を注入し発光を起こさせる部分と回折格子による反射を起こさせる部分が別々でした。これに対し、図42-2のように電流を注入する活性層の部分全体に回折格子を設けたタイプがあります(2)。活性層の表面、あるいはガイド層の表面に回折格子が設けられています。

 原理的にはどちらでもよいのですが、活性層の表面を加工することはその部分に欠陥が入りやすくレーザの特性に悪影響を及ぼすことも多いので、実用的なレーザでは活性層の隣にガイド層を設け、その活性層とは反対側の表面に回折格子を設けるといった構造になっているものが多いと思います。

 活性層を含む導波路部分はファブリ・ペロー型と同じようにリッジ状に加工して横方向への光を閉じ込めることができます。この違いは本質的なものでなく、この場合もストライプ状に不純物を拡散した構造にしてもよいですし、上のDBRレーザの方をリッジ状に加工したものにしても構いません。

 このタイプのレーザの動作原理は直感的にはわかりにくいかもしれませんが、活性層内で発生した光のうち決められた波長の光だけが常に回折格子の作用を受け、反射されて行ったり来たりすると考えればよいでしょう。このため、一定の波長の光だけが活性層内に長く留まり増幅されることになります。両端での反射はなくてもレーザ発振が起き、しかもその波長は一定になります。

 このような構造のレーザを分布帰還型(DFB型)と呼びます。DFBは”Distributed FeedBack”の略です。フィードバックは電子回路などで出力信号を入力側に戻すことを「帰還」と言いますが、ここでは光を戻してやるという意味です。両端の反射鏡のように光が戻る位置が決まっていないという意味で、「分布帰還」という言葉が使われています。

 単一縦モードのレーザとして現状ではDBRレーザよりDFBレーザの方がよく使われています。DBRレーザは利得のない領域に回折格子を設けるため、どうしてもその部分での損失が気になります。また回折格子を部分的に作るのも工程としては複雑になるので、そのようなことも原因していると思います。しかしDBR型は意外なところで活躍しています。これについては後の項で説明しています。

(1)特開昭56-148880号

(2)特開昭50-002884号

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