光デバイス/半導体レーザ

43.表面放出型レーザ

 これまで紹介してきた半導体レーザは半導体基板の上に膜を積層して光導波路を作り、そのなかで光増幅を行いレーザ発振を起こさせるものでしたから、レーザ光は基板面に平行に出射されました。このタイプの半導体レーザは普通「端面発光型」と言います。導波路の端から光を取り出すという意味です。

 しかし基板面に垂直方向に光を取り出したい場合もあります。ただし1個の半導体レーザの場合はあまり意味がありません。半導体レーザのチップは普通1mm角より小さいので何か台の上に貼り付けて使います。1個の半導体レーザなら、この台を必要な方向に向けて取り付ければ、どのような方向にも光が取り出せます。

 ところが碁盤の目のようにたくさんのレーザを並べたい場合があります。その場合、端面発光型では1個1個の素子を台に載せ、たくさん積み重ねる必要があります。また台はあまり小さくはできないので、それを積み重ねるとレーザの発光点の間隔をあまり狭くすることができず、全体が大きくなってしまいます。このようなとき、基板に垂直方向に光が取り出せる半導体レーザがあれば問題は解決します。

 もう一つ問題があります。こちらの方が重大かもしれません。端面発光型の場合、端面が露出していないと光が取り出せないので、1チップずつか少なくとも横一列に切り離してからでないと、レーザ発振動作をしているか検査ができません。普通、ICなどは1チップに切り離す前にウェハ上に作った素子に順々に針を当ててたくさんの素子を一気に検査します。1チップに切り離してしまった後はパッケージに入れて配線した後でないと動作をさせることができないので、初めから不良品だった場合には、このような作業が無駄になってしまいます。端面発光型半導体レーザにはこのような問題があります。

 以上のような問題を解決するために考えられたのが、表面放出型です。面発光型とも言います。このタイプの半導体レーザは基板面に垂直方向に光を出します。ですから碁盤の目に並べた素子も基板上に作り込むことができますし、1チップずつに切り離さなくても動作を確認することができます。

 このような表面放出型はどのようにしたら実現できるでしょうか。まずは今までの端面発光型を利用する考え方があります。つまり横方向に出る光を曲げて上方向に出すようにするわけです。光を曲げる簡単な方法は鏡で折り返すことです。

 図43-1のように端面発光型半導体レーザの一方の端面から出た光を反射鏡で反射させればよいでしょう(1)。鏡はレーザのチップとは別に用意してもよいですが、小さな鏡を位置を調整して並べるのは大変です。そこで図のように1つの基板に組み込んで1チップにしてしまうのが便利です。図の鏡は曲面鏡になっていますが平面鏡でも大丈夫です。なおこの場合のレーザの端面は劈開で作るわけにいかないので、表面が平らになるようにエッチングして作ることになります。

 もう一つは前項で説明した回折格子を使う考え方です。回折格子は設計によって横からきた光を曲げることができますから、反射鏡と同じようなはたらきをします。図43-2がその一例です(2)。この場合も回折格子と端面発光型レーザを別々に作ってもよいですが、1つのチップにまとめた方が扱いが楽です。

 上のクラッド層の一部を取り除き、露出したガイド層の表面に回折格子を作ります。活性層で発生しガイド層を伝わってきた光が回折格子によって上の方向に回折されます。図では光は斜め上に向かっていますが、回折格子の設計によって垂直上方に出るようにすることができます。

 ただこの場合は回折格子で反射した光は半導体レーザの方へ戻りませんから、前項で説明したDBRレーザとは違います。回折格子は出射光の向きを変えるだけの役割ですからレーザの共振器のための反射鏡は別に作っておく必要があります。図のレーザでは両端面が反射面となり光共振器が構成されています。活性層に沿って別の回折格子を作り、DFBレーザとすることもできます。

 以上のようなやり方で出射光を基板面に垂直な方向に取り出すことは可能です。ただ端面発光型レーザを使っているので、光共振器のために数100μm程度の長さが必要で、複数の素子を並べる場合、発光点の間隔が広くなり、たくさん並べると全体が大きくなってしまいます。そこで考えられたのが垂直共振器型で、これは共振器を基板面に垂直にした構造です。この構造はこれまでの端面発光型とはまったく違うので、実現するまでにいろいろな困難がありました。次項以降ではこれについて説明しています。

(1)特開平60-079791号

(2)特開昭53-011589号

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