光デバイス/半導体レーザ

41.回折格子

 唐突に回折格子というタイトルが出てきましたが、これは光をオンオフしても単一縦モードを維持するような半導体レーザにとって重要な要素なのです。それでまずは回折格子(グレーティング、gratingとも言います)とはどういうものかについて説明することにします。

 まず回折格子の形ですが、代表的なものは基板上にたくさんの平行な溝が周期的に作られたものです。ただし溝の周期は光の波長レベルの非常に狭いものです。溝のような凹凸はなく、屈折率が高い、低いと周期的に変化しているものも同じ機能を持ちます。

 このようなものは身近にあります。CDやDVDのディスクのラベルがない面に太陽光や蛍光灯の光を当てると虹色に見えるのをご存じでしょう。CDやDVDの記録面には非常に狭い間隔で溝が作られています。つまり回折格子のようなものができているのです。

 これに光を当てたとき虹色に見えるということはどういうことでしょうか。当てた光は白色光ですからいろいろな波長成分が含まれているのですが、そのいろいろな波長成分が、その波長ごと、つまり色ごとに違う角度で反射されるということを意味しています。このことを光を分けるという意味で「分光」とか「分波」と言います。プリズムでも似た現象が起きますが、プリズムの場合は屈折角が波長によって違うために起こります。

 光の干渉という現象については14項で説明していますが、光を2つのスリットに通すとスクリーンに干渉縞ができるというものです。2つのスリットを通った光はそれぞれ違う経路を通ってスクリーン上の各点に到達しますが、その光路長の違いがちょうど光の波長の整数倍になるような点では波は強め合ってスクリーン上のその場所は明るくなります。しかし2つの光路長が波長の半分だけ違う点では波は打ち消し合ってスクリーン上のその場所は暗くなるという原理でした。

 回折格子で起こる現象もこれと似ています。図41-1はDという周期で凹凸がある回折格子の断面を描いたものです。表面に横から入射光が入り、斜め上方に出射されているとします。このとき入射光のうち、隣り合った凸部で反射された光線aとbを考えます。

 これらの出射光が、それに対して垂直に置かれたスクリーンSに達するまでに走る距離を比較すると光線aは周期Dと図中に示した距離dを足した距離D+dだけ走り、bの方は2D+2dだけ走るのがわかります。3番目、4番目の凸部で反射された光の走る距離は3(D+d)、4(D+d)で、以下同じように5倍、6倍・・・とD+dの整数倍になっていきます。このため隣り合う光線の走る距離の違いはどれもD+dだけ右側の方が長くなります。この場合、D+dが波長の整数倍になっているとスクリーンSに到達する各光の位相はどれも同じに揃うので、各光は強め合います。逆にD+dが波長の整数倍になっていないとスクリーンSに到達する各光の位相が違うので、各光は打ち消し合います。

 ところで回折格子は上にも書いた通り、周期Dを発光波長に近いような小さな値にすることができますから、D+dは波長の2、3倍程度にすることも可能です。例えばD+dが使用する波長λの2倍になるように作っておくと、λの近辺では、D+dの1倍や3倍の波長、つまりλ/2や3λ/2も強め合うことができます。しかし使う波長の半分とか1.5倍というのはかなり離れた波長になりますから、レーザの場合、これらの波長の光が混じってくることはなく、同じ方向に反射されるのはλだけになります。

 ファブリ-ペロー型の半導体レーザでは共振器長が波長の数100倍になっているので、共振できる波長が近接しているという難点がありましたが、周期を波長に近い値にした回折格子を反射鏡にすると、このような問題は解決されます。

 図41-1ではわかりやすいように回折した光は斜め上方に出射するように描かれていますが、半導体レーザの反射鏡として回折格子を使う場合は基板面に沿って光が入ってきて、その方向に反射する条件を考えます。具体的な構造は次項で紹介しています。

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