光デバイス/半導体レーザ
38.半導体光増幅器及びスーパールミネッセントダイオード
(1)半導体光増幅器 8項で説明しているように、誘導放出が生じると光の増幅が可能になります。これまでの各項では誘導放出光を発する素子としての半導体レーザをいろいろな側面から紹介しましたが、これらの半導体レーザは、ほぼ同様な構造によって入射光を増幅して出射する光増幅器とすることもできます。これが半導体光増幅器(Semiconductor Optical Amplifier, 略してSOA)です。
半導体光増幅器の構造は基本的には半導体レーザと変わりません。例えば図38-1のようにダブルヘテロ接合に埋め込み構造やリッジ構造により閉じ込めを行ったうえ、上下に電極を設けた構造などが用いられます。しかし端面で反射が起きると光共振器が形成され、レーザ発振が生じますから、これは避ける必要があります。このための一つの手段としては両端面に無反射コーティングを施し、反射防止膜とします。
一方の端面から増幅したい光信号を入射し、電極から電流を注入すると誘導放出が生じて、他方の端面から増幅された信号光が出射されます。
技術的な特徴としては端面の反射率をいかに下げるかがポイントで、大体の場合は誘電体多層膜を用いて反射防止膜を形成しますが、膜厚や屈折率に設計値からのずれが生じると設計通りの特性が出ず反射が生じてしまい、レーザ発振が起きやすくなります。そこで導波路を端面に対して斜めにするとか、図38-2の平面図に示すように端面付近で導波路幅を広げたテーパー導波路を用いるなどの手段をとり、これと反射防止膜を組み合わせた構造が用いられます(1)。
端面の反射が小さいと光共振によるモードがなくなり、発光は半導体本来の波長が広がったものになります。つまり光増幅器は広い波長幅に対して利得を持ちます。量子井戸を活性層とすれば、サブバンドのエネルギーを利用して1.3μm帶と1.55μm帶に共用できる光増幅器も実現できます(2)。
(2)スーパールミネッセントダイオード スーパルミネッセントダイオード(Super luminescent Diode, SLD)は誘導放出を利用した発光素子です。スーパーラディアントダイオード(Super Radiant Diode )と呼ぶこともあります。このSLDは1970年代前半にベル研究所で初めて作られたようです(3),(4)。
構造は上記の半導体光増幅器とおおよそ同じです。端面での反射を防ぎ、光共振が起こらないようにします。入射光を入れるのではなく、電極間に電流を流すことによって誘導放出を起こし、発光させて出射させます。これによっていわば半導体レーザと発光ダイオードの中間のような発光素子が得られます。
なぜこのような素子が必要かというと、誘導放出による強い光は欲しいけれども干渉性は欲しくないといった理由になるかと思われます。照明とかディスプレイといった応用にはこのような光源が必要です。ただ発光ダイオードの光出力がかなり向上したので、光強度という面だけからみると敢えてこのような素子を使う理由はやや薄れてきたかと思われます。しかしこの素子は基本的に端面発光型です。端面発光の場合は光ファイバへ効率よく結合できるという特徴があります。発光ダイオードでも端面発光型にすることは可能ですが、あまり光強度の点では期待できないので、光ファイバへの結合が必要な際には利点が活かせます。
具体的な応用については後の項で取り上げたいと思います。
(1)特開平02-170143号
(2)特開平03-168620号
(3)T.P.Lee, et al, IEEE J. Quantum Electron,, Vol.QE-9, p.820 (1973)
(4)特開昭57-117285号(対応米国特許US4376946号)
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