光デバイス/半導体レーザ

29.光の閉じ込め(利得導波型)

 前項では、屈折率導波型半導体レーザについて説明しました。これは屈折率の高い部分を低い部分で囲んで光を閉じ込める構造を作ったものを言います。合わせてこの光を閉じ込めた部分に電流が流れやすくするような工夫が施されているものが多いです。

 このようなタイプを屈折率導波型と名付けて分類しているということは他のタイプもあるということです。それがこの項で取り上げる利得導波型というものです。利得導波型には構造上の特徴はあまりありません。基本的に細長いストライプ状の電極があるだけのレーザです。このような構造は半導体レーザの開発初期にすでに用いられていました。無駄な電流を減らす手段として電極を細くしてみようというのは自然な発想です。

 とはいえ、ただ細長い電極を着けただけでは十分ではありません。電極から活性層までは距離がありますから、いくら電極を細くしても活性層に流れ込むときには電流は広がってしまいます。そこでこの電流の広がりを抑える工夫がされています。

 図29-1は光の出射方向からみたこのタイプの半導体レーザの断面図です(1)。活性層が下側のn型クラッド層と、上側のp型クラッド層で挟まれています。p型クラッド層の上にn型層をさらに設け、その上部表面からp型不純物をストライプ状に拡散して抵抗の低い部分を作っています。この不純物拡散領域はn型層を貫通しp型クラッド層のなかで止まっています。この位置は活性層にかなり近いので、活性層に流れ込む電流の広がりは少なくなります。

 このタイプのレーザは導波路を作った屈折率導波型とはだいぶ違います。まず大きな違いは横方向には光を閉じ込める構造が何もないことです。それどころかキャリアが大量に注入されると半導体の屈折率はむしろ下がるので、発光している部分の屈折率はその両側の活性層部分より小さくなり、光は屈折率の違いによってはまったく閉じ込められない状態になっています。

 それでも電流は多少広がりはしても中央部分にしか流れませんから、発光と光増幅は中央部分でしかおきません。ですから光は中央部分だけに事実上集中します。利得導波とは光の増幅利得が中央部分にしかないことを意味しています。

 また活性層部分では電流を閉じ込める構造もありませんから、電流を増減すると電流の広がり方(分布)も変動し、そのため発光の状態も変化します。このような電流分布の変化によってキンクが発生することもあります(2)

 これは「横モード」と関連しています。この「横モード」という用語をこれまで使いませんでしたが、レーザの分野では「縦モード」とか「横モード」という用語がよく使われますが、「縦」、「横」はよく省略されることがあり、慣れないと分かりにくいです。

 「縦モード」の「縦」とは光の進行方向のことで、「縦モード」とは光共振器の共振モードのことを意味します。単一縦モードと言えば1波長のみ発振することで、多縦モードは複数波長が含まれていることを意味します。「タ・タテモード」は聞いただけでは意味が分かりにくいので、「縦」は省略して多モードあるいはマルチモードと言うのが普通です。

 一方「横モード」は導波路の導波モードのことを意味しています。導波路の断面サイズ、つまり光の進行方向と垂直な方向の広がりによって導波モードは決まりますが、半導体レーザの活性層は普通層状ですから層に垂直な方向は層の厚みで導波モードが決まります。この方向のモードを「垂直横モード」と言ったりしますので、ますますややこしくなります。

 層に平行な方向は3次元導波路であれば、はっきり屈折率の違いによって区切られていますが、2次元導波路の場合は周囲の構造によって導波モードは変わってきます。こちらは「水平横モード」と言いますが、単に横モードといった場合は大体水平横モードのことです。

 屈折率導波型の場合は縦モード、横モードとも単一モードになりやすいですが、利得導波型の場合は両方とも多モードになりやすいという違いがあります。このため一般的には屈折率導波型の方が特性のよいレーザということになりますが、とくに縦モードを多モード状態で使いたいという用途もありますから、その場合には利得導波型を使うことができます。ただし水平横モードが電流の大きさによって変化するとこれがキンクの一因となります。利得導波型は単純な構造ですから作るのが楽で、実験室で新しい材料のレーザを試作したりする場合によく利用されます。

(1)特開昭48-024689号

(2)特開昭52-109884号

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