光デバイス/半導体レーザ

28.光の閉じ込め(屈折率導波型)

 26、27項で埋め込みヘテロ構造(BH構造)によって電流を狭い範囲に閉じ込め、かつ光も閉じ込めることができることを説明してきました。この構造の活性層は、基板面に垂直な方向は層の厚みによって、基板に平行な方向は加工したストライプの幅によってそれぞれ画定されています。このような上下左右とも閉じ込め構造になっている光導波路を3次元導波路と言うことがあります。この3次元導波路を活性層としたBH構造半導体レーザは設計通りに作れば特性は非常に良いのですが、問題は作るのに手間がかかり、製法上の問題で特性が期待通りに出ない場合があるということです。その大きな原因は結晶成長が2回必要なことです。つまり活性層などの結晶成長をまず行い、ついでストライプ状に加工し、その後もう一度埋め込み層を結晶成長させることになります。

 このように結晶成長→加工→結晶成長という手順をとると作業が複雑になりますし、加工による悪影響があって2回目の結晶成長で欠陥の多い結晶しかできないような場合が出てきます。とくに加工が活性層という素子の最重要部分に関わると影響が大きくなります。そこで加工→結晶成長か結晶成長→加工かのどちらかだけの工程で素子が作れないかいろいろ工夫がされました。

 基板に先に溝を加工しておき、その溝の中にだけ活性層などの3次元導波路を作るという方法がありますが、特殊な技術が必要で簡単には作れません。

 次いで2次元導波路ではできないか検討がなされました。ここで言う2次元導波路とは層が基板に平行な面として広がっていてストライプなどに加工されていないという意味です。広く広がった層を活性層とする場合、どうして光を閉じ込めるのかを説明します。

 図28-1は導波路に垂直な方向の断面図ですが、基板上にクラッド層、活性層、クラッド層を結晶成長し、上側のクラッド層を中央部分を残して両側を薄く加工しています。これは結晶成長→加工のタイプです。

 なお、図では加工された部分の表面が剥き出しになっていますが、実際には活性層の劣化を防ぐために半導体層や絶縁層で覆います。半導体の場合はクラッド層より屈折率の低い材料を選びます。

 図の構造では上側クラッド層の中央部が実質的に厚くなっていますが、その両側部分ではクラッド層は薄くなっています。図中の曲線は光の強度分布を示しています。横方向に光の強度をとっています。光は活性層部分に閉じ込められますから、活性層の部分の光が一番強くなりますが、光は上下のクラッド層にもかなり漏れ出る性質をもっています。クラッド層の薄くなっている部分では光はクラッド層内に留まらず空気中にも広がっています。結果的に光は中央部の活性層に閉じ込められることになります。

 上部クラッド層の幅が狭くなっているので、電流はこの部分から活性層に流入し、光は主に中央部分で発生し、また光の増幅も光が強く閉じ込められる中央部分で強く起きます。したがってレーザ光はクラッド層の厚い中央部分に集中して発生することになります。

 一方、図28-2に示すような構造は、基板に溝を掘ってからクラッド層、活性層、クラッド層と結晶成長を行う加工→結晶成長のタイプです(1)

 図の構造では基板に溝が掘られている部分はその分下側のクラッド層が厚くなっていますが、その両側部分ではクラッド層は薄くなっています。この薄くなっている部分では光はクラッド層を通り越して基板内にも広がります。この部分では光は閉じ込められず、光は溝の上部の活性層に閉じ込められることになります。

 電流についてはとくに閉じ込める構造はありませんが、上部の一部分だけ高濃度に不純物拡散をするなどしてこの部分だけ電流を流れやすくすると、光は主に溝のある中央部分で発生し、また光の増幅も光が強く閉じ込められる中央部分で強く起きます。したがってレーザ光はこの場合もクラッド層の厚い中央部分に集中して発生することになります。

 図28-1のタイプはリッジストライプ型または簡単にリッジ型などと呼ばれます。リッジは畑などの「うね」を意味します。 図28-2のタイプはCSP型と命名されています。CSPは"Channeled Substrate Planar"の略で、溝を掘った基板で上層が平らなタイプという意味です

 現在はどちらかというとリッジ型の方がよく使われていると思います。これはつぎのような理由によります。CSP型は基板に凹みがありますが、その名の通り上の層は平らです。前にも触れましたが、液相エピタキシャル成長法は下地に凹凸があってもそれを埋めて表面が平らになるように結晶が成長できる特徴をもっています。これと違って気相成長法では基板の凹凸にしたがって表面にも凹凸が残るように結晶が成長します。このため液相エピタキシャル法以外では表面が平らなCSP構造は作りにくいのです。

 一方、最近のように非常に薄い層を積層するような構造が多用されるようになると、これを作るには液相エピタキシャル法より有機金属化学気相成長(MOCVD)法のような気相成長法が適しています。そこで基板を加工して凹凸をつけることは避け、加工が結晶成長後でよいリッジ型がよく使われるようになっています。

 まとめるとBH構造では活性層の横方向も材料を変え屈折率の低い材料で囲んで光を閉じ込めていますが、リッジ型やCSP型では活性層には加工を加えず横方向に一様な層とし周囲のクラッド層の厚みを薄くして光が漏れやすくしています。これでも光の横方向の閉じ込めは可能になりますので、これらすべてを含めて「屈折率導波型」の半導体レーザと分類しています。

(1)特開昭52-90280号

.