光デバイス/半導体レーザ

27.埋め込みヘテロ構造

 前項ですでに埋め込みヘテロ構造(BH構造)について触れましたが、この項ではGaAs系BH構造の具体例をもう少し追加説明をしておきます。

 図27-1はBH構造の半導体レーザの斜視図です(1)。構造を簡単に説明します。基板はn型GaAs基板です。その上にn型Ga0.7Al0.3Asクラッド層、とくに不純物を入れていない(アンドープまたはノンドープと言います)GaAs活性層、p型Ga0.7Al0.3Asクラッド層が積層されています。この3つの層の周りはアンドープGa0.7Al0.3As埋め込み層で囲まれています。

 表面には絶縁膜が着けられ、p型GaAlAsクラッド層が露出している部分だけ取り除かれています。このp型クラッド層の上部は電極とのコンタクトを良くするためにp型不純物の濃度が高くしてあります。p型不純物濃度の高いGaAs層などを着ける場合もあります。この層をコンタクト層などと呼びます。その上に上部電極が設けられています。GaAs基板の下面には下部電極が設けられています。

 各部の寸法の例を示すと、活性層であるGaAs層の厚みは0.5μm、幅は1μm程度、共振器長(素子の長さ)は400μm位です。このようなレーザのしきい電流は10mA程度と非常に小さくなるはずです。

 上記の素子寸法の場合、電流が流れる面積は400平方μm、すなわち4×10-6cm2ととても小さいですから、比較するためには1cm2当たりのしきい電流つまりしきい電流密度を求めて比較した方がよいです。10mAを4×10-6cm2で割ると、2500A/cm2(2.5kA/cm2)となります。BH構造でない電極がべたについたDH構造のブロードエリアレーザでもしきい電流密度は数kA/cm2になりますから、BH構造にすることによって電流密度はそれほど大幅には減りません。つまりレーザ発振、誘導放出を起こさせるにはこの程度の電流密度で電子、正孔を流し込む必要があるのです。

 しかしBH構造の素子にはその一部分にだけ集中して電流が流れるようになりますから、実際に流れる電流は非常に小さくなります。無駄な電流は素子を加熱するはたらきをしますから、それが減ると素子は長く安定に動作できることになります。

 このようなBH構造の作り方について図27-2を参照しながら説明しておきます(1)

(a)まず初めにGaAs基板の上に3つの半導体層を順に液相エピタキシャル成長法によって成長させます。22項で説明したスライド式のLPE装置を使います。

(b)この3層を細長く加工します。これはフォトリソグラフィー法によって細長い部分だけ残して他の部分をエッチングして取り除きます。このエッチングには硫酸と過酸化水素水と水の混合液などのエッチング液を用います。GaAsなどを溶かすにはどんな液がよいかはいろいろ研究されていて、このような特殊な組成の混合液(他の種類もある)がよいことがわかっています。エッチングはGaAs基板が露出したら止めるように液の温度とエッチング時間を管理します。このエッチングで図のように側面が垂直にはならず、正確には下側が広くなる、いわゆるメサ型になりやすいかもしれません。

(c)2回目の液相エピタキシャル法によって埋め込み層を成長させます。細長く加工した部分の一番上の層はGaAlAsですが、Alが入った層の表面は酸化しやすく、エッチングをする過程で空気に触れると簡単に酸化してしまいます。ところが液相エピタキシャル法でGaAlAsを成長する場合、下地が酸化されているとその上には結晶が成長しないという性質があります。このため層2の上には2回目の成長では何も着かないという都合のよいことになります。また液相エピタキシャル法は下地にでこぼこがあってもできる表面は平らになるという性質もあり、埋め込み層を作るにはこれも都合がよいことになります。

 注意しなければいけないのは上下のクラッド層はAlを含んでいますが、その側面には結晶が成長しにくいという性質があります。ただAlを含んでいないGaAs面には結晶がよく成長するので、この場合のようにGaAs基板が露出しているとうまく全体に成長が起こるとされています。しかしクラッド層との界面に空洞などができていないかはよく注意する必要があります。

(d)表面に絶縁層としてSiO2層をCVD法などによって着け、コンタクト層の表面になる場所だけフォトリソグラフィー法でSiO2層を取り除きます。

(e)上下表面に電極となる金属層を形成して素子が完成します。

 以上はGaAs、GaAlAsからできたBH構造の半導体レーザの例です。この場合、何度も言うようにAl組成が0.3でなく0.2でも0.4でもGaAsと格子整合しますので、問題ありません。電流の閉じ込めと光の閉じ込めに適するようにAl組成を選べばそれでよいわけです。活性層はAlGaAsとすることもでき、発光波長を短くすることができます。

 しかし光通信の分野への応用に重要なInPをベースにした半導体レーザではピンポイントでしか格子定数が一致しません。このため素子の作り方も難しくなります。このInP系については後に触れますので、そこでもう一度BH構造について説明することにします。

(1)特開昭50-119584号

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