光デバイス/半導体レーザ
26.電流の閉じ込め
前項の3番目の問題点としてあげたキンクの発生防止について先に考えます。これは電流を増やしていくと起こる変化と考えられています。
半導体レーザの活性層を流れる電流の様子は素子の構造に強く影響されます。基本的な半導体レーザの構造は図26-1に断面を示すように活性層をクラッド層ではさみ、そのクラッド層の外側に電極を付けたものです。広い面積に電極を付けた半導体レーザをブロードエリアレーザと呼びますが、この構造では電流は広い範囲に流れますから、発光も活性層の広い範囲で起き、端面では横方向に幅広い範囲からレーザ光が出射することになります。
このような構造では非常に大きな電流が流れてしまうので、室温で連続的な動作をさせるのが難しくなります。そこでまず考えられるのは図26-2のように上部電極を細く(ストライプ状などと言います)することです。こうすると確かに電流は電極から入るところで図26-1の場合より狭い範囲に絞ることができます。
しかし電流は半導体のなかを流れるにしたがって広がり、この広がり方は電流の大小によって変わります。平らな地面の上でホースの口から水を流したときに似ています。このような状態では活性層のなかで発光する部分も電流によって変わってしまいますので、端面の発光パターンも不安定になりやすいことになります。これが前項で触れたキンクの発生につながることがあります。
そこで考えられたのが狭い範囲に電流が流れる通り道を限ってしまおうということです。ちょうど地面に溝を掘れば、そのなかにホースから水を流しても水は広がらずに流れていくのと同じことです。
どうするかというと図26-3のように電流が流れにくい抵抗の高い層を両側に作ってしまいます。これで電流の流れる部分は電流を増減してもあまり変わらなくなります。実際これによってキンクもかなり防ぐことができます。
この抵抗の高い層を電流狭窄層などと難しい名前で呼びます。またこのような構造のレーザを埋め込みヘテロ構造(BH構造)と呼びます。この構造を開発したのは日立製作所で、1973年頃のことと思われます(1)。
(1)特開昭49-024084号
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