光デバイス/半導体レーザ

23.ヘテロ接合半導体レーザ

 19項でベル研究所の林氏らが初めて半導体レーザの室温連続動作を達成した際、出願された特許を紹介しましたが、その後、ヘテロ接合の発光素子への応用のルーツを調べてきました。その結果を簡単にまとめておきましょう。

 ヘテロ接合を発光素子に応用しようという試みは1960年代前半にはすでにありました。半導体レーザの動作が初めて確認されたのが1962年のことですから、その頃すでにヘテロ接合の考え方はあったということになります。また、ヘテロ接合そのものについてはこれよりも早くから研究され、トランジスタなどの電子デバイスに応用しようという試みは始められていました。

 初期に具体的に考えられた例をみると、SiやGe、あるいはⅡ-Ⅵ族半導体のZnSなどの基板の上にGaAsなどのⅢ-Ⅴ族半導体を積層したものが多く提案されています。このようにまったく種類の違う半導体間の接合を作ることは現在でも難しく、このような接合が実用になった例はあまりありません。

 ではなぜこのような組み合わせが考えられたのでしょうか。それは結晶薄膜を作る技術、つまりエピタキシャル成長技術が未熟だったため、実際にどのような組み合わせなら作るのが容易かということがわかっていなかったためと思われます。

 1960年代後半になると、前項で説明した液相エピタキシャル成長法という技術が登場し、これによって実際にはⅢ-Ⅴ族同士のヘテロ接合が現実的に作りやすいことがわかってきました。GaAsとAlGaAsの組み合わせもこの頃になって試作されるようになっています。

 さらに液相エピタキシャル成長用の装置が改良され、基板をスライドさせて多層の結晶膜をかなり自由に組み合わせて作れる装置が開発されて、GaAs/AlGaAs系のヘテロ接合半導体レーザを作製する準備が整ったと言えます。

 ここで林氏の特許(1)をもう一度見直しておきます。これには単一ヘテロ(シングルヘテロ、SH)構造と二重ヘテロ(ダブルヘテロ、DH)構造の2種類が記されています。図23-1はこのSH構造のエネルギーバンド図です。

 SH構造というのは接合が1つと誤解されるかもしれませんが、正しくは接合は2箇所あり、うち1つだけがヘテロ接合で、もう一つはホモ接合になっているものを言います。図では左のn型層側が半導体1のホモpn接合で、右のp型層側が半導体1と半導体2のヘテロ接合になっています。

 図は順方向に電圧をかけた場合を示していて、n側から電子、p側から正孔が流れ込みますが、電子はヘテロ接合による伝導帯の段差によって堰き止められ、正孔はホモ接合の価電子帯の段差によって堰き止められます。このため中間のp型半導体1層のところで電子、正孔とも濃度が高くなり、効率よく再結合が起こって発光します。

 半導体レーザに用いる場合はSH構造もDH構造もはたらきは基本的に同じです。ただホモ接合というのは必ずpn接合であるのに対し、ヘテロ接合は異種材料の接合ですから、pn接合に限らず、図の例のようにp型とp型の接合でも意味がある場合があります。バンドギャップエネルギーの違う半導体を接合させると、この例のようにpとpの組み合わせでも伝導帯に段差ができ、電子に対して壁ができ、これが利用できる場合があります。もちろんnとnの組み合わせも使えます。

 しかし実際には現在、SH構造の半導体レーザはほとんどないと思います。片側をヘテロ接合にするなら両方ともヘテロ接合にした方が普通はより性能が向上するからです。

(1)特開昭46-6064号(対応アメリカ特許:US3758875号)

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