光デバイス/半導体レーザ

22.液相エピタキシャル成長装置

 前項で液相エピタキシャル成長(LPE)法の原理と基本的な装置の説明をしました。しかしこの方法で半導体レーザを作製するにはもうひと工夫が必要です。なぜかと言うとダブルヘテロ構造のコア層は普通数μmの厚みの層になりますが、前回の装置ではそのような薄い結晶膜を作るのは難しいからです。また組成の違う層を積み重ねて作ることも必要になりますが、それも難しいからです。

 このような薄い多層の膜を成長できる装置は日本で開発されました(1)。特許出願は1968年、出願人は日立製作所、発明者は倉田一宏氏ほか3名です。最初の部分に従来の技術の展開について説明がされています。前項では触れませんでしたが、LPE法の最初の提案者はRCA社のネルソンという人です。前項で紹介したIBM社のルプレヒトはその後改良を行った人の一人として論文が引用されています。

 これら従来の技術の問題点についても詳しく記述されていますが、上に書いた通り、多層構造が作れないことが第一にあげられています。その他、不純物濃度を自由にコントロールできないこともあげられています。

 これらの問題点を解決する方法として、図22-1のような装置が提案されています。基板となる単結晶はGaAsですが、支持具に固定されています。真空吸着による固定と書かれています。貼り付けたりすると後で剥がすのがやっかいですから吸い付けて固定するのはよい方法です。

 原料は加熱して融解する必要がありますから電気炉のなかに入れてあります。そして融解した原料を入れるのは溶液支持体ですが、穴が複数(図では3ヶ所)あってここに異なる原料を融かした液を溜めることができます。

 そしてこの装置のポイントは基板を固定した支持具が溶液支持体上をスライドして矢印で示す方向に移動できるようになっていることです。まず左側の凹部のところで基板を止めて結晶を成長させた後、基板をその右側の凹部まで移動させて、別の組成の結晶をさらに成長させることができます。必要な層の数だけ穴を用意すればよいことになります。

 それぞれの結晶成長時には前項で説明したのと同様に液の温度をゆっくりと下げるようにします。最初に必要な結晶の層構造を設計し、その順番にしたがって原料を並べるように準備しておけば基板を順にスライドさせることによって望み通りの層構造の結晶膜を成長させることができます。

 この特許では層の厚さは12μmとまだ厚く、また半導体レーザの製作は意識されていませんが、出願日からみてこのようなスライド式の装置の提案としてはもっとも早かったと思われます。しかしアメリカではこれとは独立に同様な装置が開発され、半導体レーザの作製に使われました。

 半導体レーザの室温連続動作に初めて成功したベル研究所からLPEについての特許が1970年に出されています(2)。林氏の共同研究者であったパニッシュという人が発明者になっています。装置としては上記のものとほとんど同じですが、こちらにはレーザを作るためのダブルヘテロ構造を実際に作製した実施例が書かれています。

 具体的には4種類の溶液を並べて配置し、n型GaAs基板の上にSnドープのn型AlGaAs、Siドープp型GaAs、Znドープp型AlGaAs、GeドープGaAsの4層が成長されています。膜厚はもっとも薄いSiドープGaAs層が1.5μmと薄く、これを成長するための時間は15秒であったと書かれています。AlGaAsのAlの組成比は0.3~0.5となっていて、この組成比のコントロールにまではまだ至っていないという感じです。

 しかし遂に半導体レーザに必要な結晶層の構造を作製する方法が開発されたということができます。

(1)特開昭46-004913号

(2)特公昭47-012057号

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