光デバイス/半導体レーザ

15.レーザ光の回折

 前項でヤングの実験のスリットSは光源からの光を回折させていると説明しました。この回折というのも光の波としての性質が現れた典型的な現象で、レーザ光の特性としても重要です。

 まず回折がどんな現象かというと、影のでき方に関係します。太陽の光を遮るものが何かあると、その後ろにはその遮るものの形の影ができます。また板に四角い穴を開けて平行な光を当て、板の後ろにスクリーンを置くと、当たり前ですが、スクリーンにはその四角い穴の形に光が当たり、他の部分は影になります。

 しかしこの穴の大きさを小さくしていくと四角い光の当たっていた部分の形が段々ぼやけてきます。普通に考えると影になっているはずの部分にも少し光が当たるようになります。光が影のなかにも回り込んでいるように見えるので、これを回折と言います。

 この現象はどうして起こるのでしょうか。図15-1のように左から平行な光が穴の開いた遮光板に当たっているとします。穴の部分にきた光がそれからどう進むかについてはホイヘンス(Huygens)の原理というのがあります。この原理によれば、穴の部分の各点に点光源があって、そこから光は球面状に進むと考えます(図では平面上だけで考えているので円形状になります)。そして板の右側にスクリーンを置くと、穴の各点からの光の重ね合わせがスクリーンを照らす光となるというのがホイヘンスの原理です。

 さて遮光板の端をAとBとします。このときスクリーン上のP点とP点の外側は影になるはずです。ところがAとBの間に点光源がびっしりと並んでいると考えると光はそれぞれの点からあらゆる方向に進みます。影になるはずのP点に注目すると、この点にはA点のそばからもB点のそばからも、その間の各点からも光が来ることになります。しかしP点がP点よりだいぶ遠くに外れたところにあるとすると、A点からの光とB点からの光の光路長は波長の何倍にもなってしまいます。

 A点とB点の間の各点から来る光の光路長はそれぞれ少しずつ違いますから、全部を重ね合わせると各光は打ち消し合ってしまうことになります。つまりP点やP点の外側は光が打ち消しあって結局影になるということになります。

 一方、P点とP点の間はどうなるかというと、まっすぐ来る光は打ち消されませんし、A点とB点の間から来る光には光路長が等しい光も含まれますから、この間の光がすべて打ち消されることはありません。

 ホイヘンスの原理のもとで光が直進するということは、以上のように説明されています。この説明をしたのはフレネル(Fresnel)です。

 しかしP点に近いP点ではどうでしょうか。以上のような考え方ではP点から少し外れただけでは光がすべて打ち消しあうとは考えられません。P点には打ち消されない光があるなら、そこから光の波長程度離れた点でも打ち消されない光が少しはあるはずで、これが回折した光ということになります。

 さらにA点とB点が非常に近くなり、その距離が光の波長に近づいた場合を考えると、この場合は例えP点でもA点とB点から出た光の光路長はそんなに違いがなくなります。ということはP点でも光は完全に打ち消されず、回折光が来るということになります。

 このため穴が小さい場合は常識と少し違うことが起こります。普通に考えると、穴を小さくしていくとスクリーン上の光の当たる部分も小さくなっていきます。ところが穴のサイズが光の波長程度になってくると穴を小さくするほど回折がはっきりと起こるようになるため、光が広がりスクリーン上の広い範囲に光が当たるようになります。

 半導体レーザにおける例をあげておきます。図15-2のように半導体レーザからの出射光は楕円形に広がります。これは半導体レーザの光を出す部分(光出射面)が矩形になっているからです。半導体レーザは結晶膜を積み重ねて作られます。活性層の厚みは光導波路としての設計上せいぜい数μmで光の波長の数倍程度です。ところが横方向の光が出る範囲は今後説明していきますが、通常もう少し大きくなります。

 そこで光出射面の形は矩形になり、長さが短い縦方向の方が回折が強く起こって光が広がり縦長の楕円形の出射光となるのです。半導体レーザでは光が出射する面の形を観察したものを近視野像といい、スクリーンなどに投影される出射光の形を遠視野像と言います。この二つは違った形になりますが、それは回折現象で説明がされることになります。

ホイヘンス(C.Huygens)は18世紀オランダの物理学者。 フレネル(O.J.Fresnel)は19世紀フランスの物理学者、回折、反射、レンズなど光学分野の現象、物品にその名が多く残っています。

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