光デバイス/半導体レーザ

13.導波モード

 レーザでは縦モードとか横モードとか「モード」という語がよく出てきます。この導波モードもその一つです。モード(mode)という語を辞書で引いてみると、一般語の訳としては様式とか方式という語が載っています。○○様式とか××方式とかいう表現は、単純に言い表せないような複雑な性質を引っくるめて分類するような場合に使われるように思います。    レーザの分野で専門用語として使われるモードは、本来電磁波の分野から来たものです。「姿態」いう耳慣れない訳語が当てられていましたが、最近はあまり使われなくなっているようです。電磁波という波は電界の振動と磁界の振動からなっていてそれらの振動には方向、振幅、周波数という要素があるので複雑です。そこで電磁波を、伝わり方の性質ごとに分けるときにモードという語を使います。

 一番直感的に分かりやすいのは導波モードと放射モードでしょう。光導波路のコアのなかを伝わる光を光線と考えると、屈折率の高いコア部と屈折率の低いクラッド部の界面で、ある角度より緩い角度で界面に当たる光線は界面で全反射されてクラッド側に出ず、図13-1に示すようにコアの中をジグザグに折れ曲がりながら伝わります。これを導波モードの光と言います。

 しかし図13-2のようにある角度よりきつい角度で界面に当たる光線はコア部からクラッド部へ出てしまいます。つまり光導波路のなかを伝わることができません。これを放射モードの光と言います。このある角度を臨界角と言います。

 導波モードには複数のモードがあります。光ファイバには単一モード(シングルモード)光ファイバと多モード(マルチモード)光ファイバがありますが、単一モード光ファイバは一つの導波モードの光しか導波しないのに対し、多モード光ファイバは複数の導波モードの光が伝わります。この一つとか複数のモードとはどんなものでしょうか。

 図13-1に戻ってジグザグに進んでいく導波モードの光線を見ると、この光線は上下のコアとクラッドの境界で反射され、行ったり来たりしています。これは以前に説明した光共振器に似ています。光共振器では2つの鏡の間を光が行って帰ってくるときに、波がちょうど重なりあうように鏡が置かれていると光は強め合いました。光導波路でも光が上下の境界を行って帰った例えば図のA点とB点で波が重なり合う条件になっていると光は強めあってうまく伝わります。

 A点とB点は場所がちがうので、光共振器の場合とはちがって強めあったり、弱めあったりは関係ないではないかという疑問も出てくるでしょう。これまではわかりやすくするために、光導波路の中を伝わる光を光線と考えて説明してきました。しかし実際には光は波であるので、光線としてA点とかB点だけを通過しているわけではなく、上記のような波の重なり合いという考え方ができます。

 導波モードに戻ると、光共振器の場合、共振して強め合うのは鏡の間の距離が波長の整数倍の場合であればよく、いろいろなケースがありました。光導波路の場合も波長とコアの幅の関係でいろいろなケースが出てきます。これが複数の導波モードに相当します。

 コアの幅があまり狭いともはや光はコアに入ることはできず、光導波路として機能しません。ある幅以上になると、上下の境界の間を1波長で行って帰ってくる光だけが伝わるようになります。しかし2波長で行って帰る光は伝わることができないようにコアの幅を定めることができ、この場合は1つのモードしか伝わらないので単一モード(シングルモード)光導波路になります。コアの幅を大きくしていくと複数のモードの光が伝わるようになり、これが多モード(マルチモード)導波路です。

 半導体レーザでは普通、コア層の幅は数μmで、単一モードしか伝わらない光導波路になっています。 

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