光デバイス/半導体レーザ

12.光導波路

 光導波路とは何かと問われたら、読んで字の通り、波を導く路なのですが、光が付いているので波のなかでもとりわけ光波を導く路ということになります。英語では”optical waveguide”ですが、導波路はwaveとguideが離れていない一つの単語になっています。日本語でも英語でも「光」は省略され、単に導波路と言うこともよくあります。

 さて光導波路が光を導く原理ですが、屈折率の違いを利用しています。空気より屈折率の大きい水にお箸を差し込んだとき曲がって見えるのは光の屈折のせいだというのはだれでも知っています。屈折率の大きい水の中の光は入射角が大きくなると(入射角というのは水面に立てた垂線からの角度ですから、光が水面近くから入射した場合)、屈折率の小さい空気側に出て行けなくなります。これを全反射と言い、光導波路はこの性質を利用しています。屈折率の高い材料で路を作り、周りを屈折率の低い材料で囲んでおくと、光は屈折率の高い路に閉じ込められます。

 このような光導波路の代表が光ファイバです。中心部のコアはその周囲のクラッド部より屈折率が高い材料でできていて、光はコア内に閉じ込められて伝わっていきます。半導体レーザで使われる光導波路はあえて区別するならば、平板光導波路と言われます。もっとも簡単には屈折率の高い層の両側を屈折率の低い層で挟んだ構造をしています。屈折率の高い層がコア層で両側の屈折率の低い層がクラッド層です(図12-1参照)。

 ここで半導体レーザのダブルヘテロ構造を思い出して下さい。活性層をそれよりもバンドギャップエネルギーEgの大きい層で挟んでいました。これは電子と正孔を活性層に閉じ込めて結合しやすくするためでしたが、活性層がその両側の層より屈折率が高ければ、光導波路にもなることがお分かりでしょう。

 電子と正孔だけでなく、光も同じ層内に閉じ込められていれば、誘導放出は起こりやすくなりますので、半導体レーザにとっては望ましい構造ということになります。そこで図12-1にまとめて示したように、半導体レーザの活性層はクラッド層よりバンドギャップエネルギーが小さく、かつ屈折率が高い材料を選ぶ必要が出てきます。しかも質のいい結晶層を作るためには、二つの材料の原子間隔(格子定数)がほぼ一致しているという条件も求められます。材料の選定にはかなり厳しい条件が課されていることになります。

 話が飛びますが、パソコンのディスプレイにはほとんど液晶ディスプレイが使われています。液晶自体は光らないので画面の裏側にバックライトと呼ばれる面状の発光体があって画面を照明しています。この面状の発光体には多くの場合、導光板とかライトガイドとか呼ばれるものが使われています。

 この導光板自体はただの透明なプラスチック板などでそれ自体は光りませんが、裏側に一様に光を反射しやすいように凹凸などを付けてあります。プラスチック板の縁から蛍光灯や発光ダイオードの光を入れてやると、光は空気より屈折率の高いプラスチック板のなかを伝わり板全体が一様に光る面状の発光体となります。

 このような厚さ数mmのプラスチック板のなかを伝わる光の性質は上で説明したような屈折率差による全反射の考え方をすれば問題ありません。ところが半導体レーザの活性層の厚みは数μmで発光波長の数倍程度です。このような薄い層のなかを伝わる光は電磁波としての性質を現してきて、ある特定の電磁波しか伝わらなくなり、特有の性質を示します。この辺の話もわかりやすく説明するのが難しいのですが、次項でその説明を試みることにします。

 英文の特許や技術文献が翻訳されるとき、”waveguide”が「導波管」と訳されているのをよく見かけます。導波管は本来マイクロ波を導くための金属管のことですが、光導波路より古くから存在するものです。英語では導波路も導波管もwaveguideで、辞書には古くから知られている「導波管」の方しか訳語として載っていないかも知れません。しかし光導波路は管ではなく、原理的にも導波管とは異なりますので、この訳語は違和感があります。技術翻訳をされる方には注意をお願いしたいと思います。

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