光デバイス/半導体レーザ

5.初めてのレーザ装置:ルビーレーザ

 最初の実用的なレーザ装置となったルビーレーザについて説明します。ルビーレーザのような固体レーザと半導体レーザはだいぶ違うのですが、誘導放出や光増幅の典型例という意味で見ておく価値はあると思います。

 ルビーレーザの発明者はアメリカのヒューズ・エアクラフト社のメイマン(T.H.Maiman)という人です。レーザの発明は1960年と本などには書かれていますが、短い報告が1960年にいくつか発表されています(1)。少し遅れて詳しい技術の内容が書かれた特許が出願されています(2)

 ルビーはコランダム(日本語では鋼玉)という名前がついた鉱物で、物質としては酸化アルミニウム(Al)の結晶です。ルビーはこのうち赤色のものを言い、青色のものなどがサファイアと呼ばれ、ともに宝石として知られています。純粋な酸化アルミニウムは無色透明ですが、ルビーの赤色の発色はなかに含まれているクロム(Cr)不純物によっています。クロム原子は自然光のなかの緑色の成分を吸収するので、ルビーは緑色と補色の関係にある赤色に見えます。

 ルビーレーザの発光はこのクロム原子の周りの電子によっています。図5-1はルビーレーザに関係するクロム原子の電子のエネルギー準位の概略を示しています。準位1と書かれているのが一番低いエネルギーです。熱平衡状態では電子の多くはこの低いエネルギーE1の状態にいます。これに光を当てると、緑色の波長の光が吸収されて、電子はエネルギ帶Bと書かれた接近した多数のエネルギー準位が集まっているエネルギーの範囲内に励起されます。

 Bの範囲内のエネルギーをもった電子は破線の矢印のように準位1に戻ることもあり得ますが、Bの範囲より低いエネルギーE2をもつ準位2に入ることも許されるので、ほとんどがこちらへ移ります。準位2のエネルギーE2をもった電子はしばらくその状態に留まれますから準位1からエネルギー帶Bに上がった電子が準位2にどんどん貯まることになります。つまり前項で説明したのと同じことが起こり、準位1よりもエネルギーの大きい準位2の電子の方が多い誘導放出が優勢になる条件が整います。

 準位2の電子はいずれ準位1に落ち、E2とE1のエネルギー差に等しい光を放出します(自然放出)。これが引き金になって誘導放出が起き、準位2の電子が準位1へどんどん落ちて発光し、その光がさらに誘導放出を引き起こして光はさらに強くなり、やがてレーザ光となって結晶の外へ出てきます。

 ルビーレーザ装置は特許の図面によると図5-2のようなものとされています(2)。30と書かれた円柱状に加工されたものがルビー結晶です。その周りのコイル状のもの28はフラッシュランプの放電管です。これに電源36から電圧をかけるとフラッシュランプは放電してパルス光を発生します。周りにある38はフラッシュランプの光を外に逃がさず、ルビーに当てるための反射鏡です。

 フラッシュランプが発する光は白色光ですが、このうち緑色の成分が吸収されて、準位1の電子がエネルギー帶Bへ励起されます。そして上に書いたような過程が起きてレーザ光34が発生することになります。なおルビーレーザの発光波長は694.3nmの赤色です。エネルギー帶Bから直接準位1へ直接落ちる発光は緑色になるはずで、ルビーレーザの発光は準位2を経由していることが出てくる光の色からも分かります。

(1)T.H.Maiman, "Stimulated Optical Radiation in Ruby", Nature Vol.187, P.494 (1960)

(2)米国特許US3353115号

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