光デバイス/半導体レーザ

4.光の増幅

 前項では誘導放出という現象を言葉で何とか説明しようとしましたが、あまりわかりやすい説明とは言えなかったようです。もう一度まとめると、原子の周りを回っている電子が例えば図4-1のようにE1とE2という2つのエネルギーのうちどちらかのエネルギーしか持てないとします。ここでE2の方がE1よりも大きいとします。この原子にちょうどE2とE1の差に等しいエネルギーを持った光が当たると、共振現象のようなことが起こってE1にたくさんの電子が居るときにはE2に移り、E2にたくさん居るときはE1に移りやすくなります。

 低いエネルギーのE1から高いエネルギーのE2に電子が移る現象を光吸収、逆にE2からE1に電子が移る現象を誘導放出と呼んでいます。光吸収の場合は入ってきた光のエネルギーは電子に吸い取られ光は消えてしまいますが、誘導放出の場合は新たに入ってきた光と同じE2とE1の差に等しいエネルギーをもった光が発生します。

 原子をとくに光を当てたり電圧をかけたりしない自然の状態に置いたとき(熱平衡状態にあると言います)、ほとんどの電子はエネルギーの低いE1の状態に居ます。このような状態の原子に光を当てると、E1からE2に移る電子が主流になりますから、光吸収が優勢です。何らかの方法でE2にいる電子の方を多くしてやることができれば、誘導放出を優勢に起こすことができます。

 しかしこのような2つのエネルギーの状態があるだけでは上のエネルギーE2をもった電子を多くすることは困難です。なぜかというと光吸収によってせっかくE1からE2に電子を持ち上げてやっても同時に誘導放出が起こって戻ってきてしまいます。もともとE1にいる電子が多いわけですから、E2の方を多くすることはできません。

 そこで考え出されたのが図4-2のようにもう一つのエネルギーE3にも電子が居られるような原子を使うことです。E3はE2よりも高いエネルギーです。まずE3とE1の差に等しいかそれより高いエネルギーをもった光をこの原子に当てます。この光は吸収されてE1をもった電子はE3まで持ち上げられます。ここでE3のエネルギーを持った電子は、E3よりも少し小さいエネルギーE2まですぐに落ちてしまうとします。E3とE2の差が小さいとこのようなことは起こりやすくなります。

 E3とE1の差に相当する最初の光が当たり続けても、E2のエネルギーの電子は誘導放出を起こしにくいので、電子はE2にしばらく留まれます。つまりE2の電子をE1の電子より多くすることができます。ここでE2とE1の差に相当するエネルギーの光が当たると、誘導放出が起き、これは光吸収よりも優勢になることができるのです。なお、E2とE1の差に相当するエネルギーの光は自然放出によって発生するので、とくに外から当ててやらなくても大抵は大丈夫です。

 一旦、誘導放出が優勢になると、例えばそれが固体のなかであれば、固体はある大きさを持っていてたくさんの原子からなっていますから、光がそのなかを進んでいくうちに誘導放出が誘導放出を引き起こし、どんどん光が強くなっていきます。つまり光が増幅されていきます。

 そんなうまいことができるのかと思われるかもしれませんが、できるのです。大抵のレーザでは図4-2に似たような状態が実現しています。最初に実現したルビーレーザもこの典型例です。次の項ではルビーレーザの話を少しします。

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