光デバイス/半導体レーザ

6.光共振器

 前項のルビーレーザの話で触れなかったことがあります。ルビー結晶のロッドの両端面(前項の図5-2参照)は銀の膜でコートされていると、特許には説明がされています。つまりルビー結晶の両端は鏡になっていて、なかで起こった誘導放出による光は結晶両端で反射され、結晶のなかを行ったり来たりすることになります。

 鏡を2枚向き合わせてその間に立ってみたことがありますか。自分の像が無数に鏡の奥の方まで並んだように見えてちょっと不思議な感じがします。これは2枚の鏡の間を光が行ったり来たりして何回も繰り返し像を作っているためです。

 誘導放出はこれまで説明してきたように、2つのエネルギーのうち高いエネルギーをもった電子がたくさんいるときに、この2つのエネルギーの差に等しいエネルギーをもった光が入ってくると、電子はこの光に刺激されて低いエネルギーに移ろうとし、そのときに光を出すというものです。このとき出る光のエネルギーも2つのエネルギーの差に等しいので、この光がさらに誘導放出を引き起こします。

 このためできるだけ長く結晶のなかに光を走らせた方が光は強くなるはずです。しかし結晶を大きくするには限度があります。そこで発案されたのが鏡を2枚置いて、その間に光を繰り返し往復させることでした。これによって光は結晶のなかを何度も往復し、そのたびに光を出すので強いレーザ光を得ることができます。半導体レーザを含め、現在ほとんどの種類のレーザでこの鏡2枚の間で発光させるという方法がとられています。

 ところで2枚の鏡で発光する結晶を挟むのはいいですが、これでは折角発生したレーザ光は鏡の間を往復するだけで外に取り出せません。特許には片側の銀の膜に開口を設けたと記されています。つまり鏡に小さな穴を開けてそこから光を取り出しています。この方法はルビー結晶がかなり大きいからできるのですが、小さい半導体レーザでは難しくなります。そこで半導体レーザでは半透鏡が使われます。光の一部だけを反射し残りは透過する鏡です。いずれにしてもレーザ光を取り出すには工夫が必要です。

 ただよく考えなくてはいけないのは、レーザ光をたくさん取り出そうとして穴を大きくしてしまうと反射して戻っていく光が減ってしまうので、思ったように強い光が出なくなってしまいます。逆に穴が小さすぎると鏡の間では光は強くなっているのに外にはあまり取り出せないことになってしまいます。そこで両方がうまく折り合うように穴の大きさを決めなければいけません。半透鏡なら反射率(または透過率)を適正に決めなければいけません。

 なお、2枚の鏡はレーザ発光をする結晶その他(レーザ媒質ということもあります)にくっついている必要はありません。図6-1のように離れていても構いません。この場合は一旦レーザ媒質から外に出た光が鏡で反射されもう一度、レーザ媒質に入るということを繰り返すことになりますが、誘導放出を多く起こさせることには変わりありません。

 最後にこの項の表題の光共振器に触れておきましょう。共振現象は一定周期で振動する地震の波とか音波とかあらゆる波について起こる現象です。光も波の一種ですから例外ではありません。光を共振させるもっとも簡単なものはいままでお話してきた2枚の向き合った鏡です。図6-2に2枚の鏡の間に波として光が往復する様子を示しました。

 光の波長がλで、鏡と鏡の距離(共振器長と言います)がLとします。このときLはλで割り切れる場合には波の高いところと低いところは光が反射して戻ってきても変わりません。Lがλで割り切れない関係になっていると、行きの光と返りの光の高いところと低いところはうまく合わず、最悪の場合は高いところと低いところが一致して打ち消しあってしまいます。

 つまりLがλで割り切れる関係になったときだけ光は強めあいます。これを光の共振現象と言い、2枚の鏡の組み合わせは光共振器になります。レーザの場合にはLの整数分の1の波長の光が外に出てくることになります。

 しかしルビーレーザなどの場合、かなり大きな結晶が使われます。例えば鏡の間の距離Lが1cm(=10000μm)とします。発光波長は大体0.5μmですから、Lはλの20000倍にもなっています。このような場合λが少しちがってもLをλで割って答が20001になったり、19999になったりすることになり、ほとんどどんなλでも割り切れることになってしまいます。ですからLが波長よりずっと長い場合は共振現象はあまり気にする必要はありません。しかし半導体レーザの場合は共振器長が数100μm程度と短くなりますから、発生するレーザ光の波長は共振器長によって影響を受けるようになってきます。

 ほとんどすべてのレーザに2枚の鏡を使った光共振器が使われていますが、光増幅作用がこの光共振器によって起こると誤解してはいけません(そのようなことを書いた一般向けの本がありました)。光共振器はあくまでレーザ媒質中での光の走行距離を伸ばしているだけで、光増幅作用はレーザ媒質中で起こる誘導放出によっているのです。

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