科学・基礎/結晶の話

7.結晶の構造

 2項で述べたように、1mm角の結晶でも無限に近い数の原子を含んでいるので、結晶の大きさは原子の大きさに比べて無限に大きいとして考えてよいと言えます。つまり、原子の規則的な繰り返しは無限に続いているとみなします。 

 この項では結晶の構造はどのように表現できるのかについて説明します。前にも述べたように3次元の図示はわかりにくいので、まずは2次元で説明します。

 図7-1は2次元の結晶の一部を模式的に図示したものです。2次元結晶は2つの結晶軸 \(a\) と \(b\) を持ちます。これらは一般的には図のように直交するとは限りません。この2つの軸が作る平面を格子状の平行四辺形によって繰り返し構造が表されています(図では3×4)。

 この平行四辺形の各格子のなかに色の異なる3つの円のパターンを示していますが、これは原子の配列を模してはいます。しかし原子の数は3個とは限りませんし、原子でなく分子でもよく、種類、配置パターンも様々な場合があります。ここでは敢えて幾何学的に対称でないパターンを採用し、あらゆる場合を代表するように示しています。ただしこのパターンで表されている物質は各格子のなかに同一の位置関係で配置されていなければなりません。

 ここでこの格子パターンのことを「空間格子」と呼びます。この図の平行四辺形の交わる2辺を結晶軸にとることができます。この結晶軸に沿って平行四辺形を平行に移動することにより、図のように全空間を埋め尽くすことができます。このような格子の繰り返し単位となるパターンを単位格子と呼びます。一方単位となる「原子」の配列パターンを単位構造と呼びます。

 すると結晶構造とは、単位格子と単位構造を組み合わせたものと定義できますから式のように書くと

  結晶構造=単位格子+単位構造

と表されると言ってよいかと思われます。

 単位格子は同じ単位構造に対して図のような平行四辺形Aに限られるわけではなく、例えばBのように辺(境界)を原子の位置に重なるように採っても構いません。辺が原子の位置に重なる場合は、その原子は隣の格子にも一部が属することになります。またCのように変形しても格子内に単位構造が含まれればこれも単位格子です。ただしA~Cはいずれも単位構造を一つだけ含みます。この場合を特に基本単位格子と呼びます。

 例えばDのような採り方をすると単位構造を2つ含むことになります。これでも結晶軸方向に平行移動すれば全空間を埋めることができますからこれも単位格子です。しかし基本単位格子ではないということになります。

 このように単位格子の採り方は無数にあることがわかります。しかし少なくとも単位構造を1つ含むという要件を満たさないEのような場合は単位格子ではないということになります。

 以上をもう少し数学的に表すとつぎのようになります。

 単位格子Aの場合について考えます。任意の単位格子の頂点を原点とし、そこで交わる2辺を結晶軸(\(a\) 軸と \(b\) 軸)にとります。

 このとき、図7-2に示すように、結晶の任意の一点 \(r\) を \(r’\) へ移動させる平行移動の操作をするとします。これを並進操作と言います。これは \(n_1\)、\(n_2\) を整数として

\[r'=r+n_{1}a+n_{2}b\]

と表されます。上式によって、原子配列が実質的に変化しないとき、この2つのベクトル \(a\)、\(b\) を単位格子ベクトル、これらベクトルの作る平行六面体(2次元の場合は平行四辺形)を結晶の単位格子、または単位胞と言います。 また、

\[n_{1}a+n_{2}b\]

で表される空間の点を格子点、その配列を空間格子と呼びます。そして、単位構造とは、それを格子点上に並べると全空間を埋め尽くし、かつ結晶をあらわせるような原子の配列を言います。

 これは結晶軸をもう一つ増やす(\(c\) 軸を追加する)ことによって、容易に3次元に拡張できます。すなわち \(n_1\)、\(n_2\)、\(n_3\) を整数として

\[r’=r +n_{1}a+n_{2}b+n_{3}c\]

が3次元の並進操作を表します。格子点は

\[n_{1}a+n_{2}b+n_{3}c\]

で表せます。

 ところで、次の規則にしたがって得られる単位胞をウイグナー・ザイツ(またはウイグナー・サイツ、Wigner-Zeitz)胞と呼びます(図7-3)。図は2次元ですが、一般には3次元において考えます。これはいつも基本単位胞になります。

1) ある格子点から隣接する格子点へ直線 \(a\) を引きます。

2) この直線を等分する垂直な面(垂直二等分面) \(b\) を描きます。

3) 1)と2)を全ての方向で実行します。

 これは「半導体物理学」の31項で示しているように、逆格子空間でのウイグナー・ザイツ胞がブリュアン・ゾーンになることで知られています。