科学・基礎/結晶の話

6.結晶はなぜできる

 原子や分子が固体になるとき、人為的な操作がされない自然界にあっても、なぜ無秩序のままでいないできちんとした規則に従って配列して結晶を作るのでしょうか。これには何か理由があるはずです。この項ではそれを考えます。

 一般の自然現象では物事はエネルギーのもっとも低いところに落ち着くと考えて説明がされています。この考えに従えば、原子や分子は規則的に配列した方がポテンシャルエネルギーが低くなると考えられます。しかし配列状態とエネルギーの関係を一般的に解析するのは簡単ではありません。ここでは簡単なモデルを使って直感的に考えます。

 既に3項で考えたように、原子を球体とみなし、箱の中にびっしりと並べることを考えます。実際にやってみるなら球体としてピンポン球くらいを使うのが適当でしょうか。野球のボールでは大きすぎて重すぎます。ビー球(ガラス)やパチンコ球(鉄)でもいいかも知れません。

 図6-1に示すように、球体を箱の中にびっしりと互いに接するように並べます。箱の大きさはぴったり合っているとします。球体が敷き詰められた上にさらに球体を入れると、重力のはたらく地球上ならば、上の球体は下の球体の並んだ間の窪んだ部分に落ち着くはずです。ここに落ち着くのがポテンシャルエネルギーが低いからです。原子の場合は重力よりすでに前の項で述べた各力がはたらくことになります。

 第3層、第4層と続けていくと、それぞれ下の層の窪みに後から入れる球体が落ち着きますから、各球の位置関係は自ずと決まってきます。そしてある規則性をもって球体が並んだ立体ができ、ランダムな配列にはならないはずです。

 もう少し具体的に説明します。原子の重なりを見やすくするために図6-2のように原子を円で示すことにします。また本来原子は無限に近く配列しているので、図6-1の箱は省きました。びっしり接するように並べた球体は、図6-2(a)に濃い色で示すように1個の球を6個の球が囲む六方対称にもっともなりやすいはずです。その上にもう一層並べると上の層の球体は、矢印で示す下の層の3個の球体の間の窪みに入り易くなります。この様子を同図(b)に示します。3個の周囲の第2層の配置も薄い色で示しています。

 さらに3層目を並べるとき、図6-2(b)をみると第1層と同じ並びの層をつくることができることがわかります。これは中間層を介して六方対称の層が真上に重なる場合です。この並べ方は3項の図3-8に示す六方最密構造であることがわかります。

 この3層目を並べるとき、1層目の真上(一層目と同位置)ではない図6-3(a)の矢印で示す位置にくることも可能なことがわかります。この結果、第3の層は同図(b)に青色で示す配置になることがわかります。この上に4層目を並べると、これは1層目の真上に来ます。これがどんな構造なのかは少しわかりにくいですが、図6-4(a)に示すように立体として描くと、正三角形に原子が並んだ第2層(赤色)と第3層(青色)が重なった構造となります。これを45度回転すると同図(b)のようになり、これは面心立方格子であることがわかります。つまりこの最密充填構造は面心立方構造に相当していることが分かります。

 一方、体心立方構造は六方対称ではなく四方対称構造です。第1層目は図6-5(a)のような並びになります。これは最密充填構造ではありません。第2層目の原子は同図の矢印の位置に入ります。窪んだ位置に落ち着くのは六方対象の場合と同様です。結果は同図(b)のようになります。

 ダイヤモンド構造は正四面体構造を単位にした構造なので複雑です。この正四面体を単位としてこれが最密充填された構造です。構造が複雑で説明が難しいので、省略しますが、4項の図を参照すれば、ある程度の理解はできるかと思います。

 また上記の例はすべて同一の球体の配列ですが、化合物の場合には複数種類の、したがって異なる大きさの原子によって構成されます。イオン結晶のところで示したように原子(イオン)の大きさによって安定な結晶構造ができるか左右されることもあります。このため化合物分子によってそれぞれ異なる条件があり、その条件のもとで結晶構造は決まることになります。

 このように最密充填構造がすべての結晶構造のできる理由を説明するわけではありませんが、なぜ原子が規則性をもって配列するのかについて示唆を与えることは確かです。

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