科学・基礎/結晶の話
2.結晶とは
結晶とは何か?結晶の定義は?と訊かれたら何と答えたらいいでしょうか。百科辞典などには「原子、イオン、または分子が、規則正しく配列している固体」などと説明されています。
ここには「3次元に規則正しく」とは記されていませんが、基本的には結晶は3次元に規則正しく配列したものです。1次元に規則正しくという場合は、1方向にのみ同じパターンが繰り返されることを意味し、2次元に規則正しくと言えば、2つの方向に同じパターンが繰り返されることを意味します。同じパターンが繰り返すというのは言い換えれば、単位となるパターンを単位長さだけ平行移動するとつぎのパターンとぴったり重なると言うこともできます。2つの方向は必ずしも直交している必要はありません。包装紙や室内の壁に貼られる壁紙などの文様に2次元パターンの例が見られます。
同様に3次元に規則正しい配列とは、3つの方向に同じ立体のパターンが繰り返される、あるいは平行移動すると重なることを意味します。3つの方向は直交する必要はなく、ある特定の3つの方向をとったときに規則正しい繰り返しが得られればよいことになりますが、これを見分けるのは必ずしも容易ではありません。1次元や2次元の配列は紙のうえに描いて示すことができますが、3次元の場合はそれができないので、なかなか直感的な理解が難しいと言えます。
規則正しい繰り返しパターンということは、その単位になるパターンが規則正しく繰り返し、その繰り返しが無限に続けられる必要があります。3次元の場合で言えば、単位となる3次元立体を定め、それを3つの軸方向に空間を埋め尽くすように配列でき、埋められずに隙間が残ってしまったり、重なり合ってしまうことがない必要があります。
結晶を構成する原子の間の距離は通常1nm(10-9m)以下です。1mm(10-3m)角の小さな結晶でも1辺に数百万(~106)個を超える原子、全体ではその3乗の~1018個もの原子が規則的に並んでいることになります。これは無限に近いと言える数なので、上記の「無限に続けられる必要」ということは決して非現実的なことではありません。
結晶の対極にあるのが非晶質(アモルファス物質ともいう)です。原子の配列にまったく規則性がない場合で、代表はガラスです。二酸化ケイ素のみからなる場合は石英ガラスです。原子の配列に規則性はありませんが、ケイ素と酸素の比率は全体的に見れば1:2になっています。身の回りにあるガラスは二酸化ケイ素を主成分とし、その他にいくつかの元素(の酸化物)を含んでいるのが普通です。
一般に多く存在する固体状態の物質は多結晶といわれる状態ですが、状態は個々にかなり異なります。複数の結晶が接するように存在している場合は全体としてほぼ結晶状態ですが、粒界といわれる境界で結晶が区切られ、隣り合う結晶の方向は異なるような状態になっています。これとは反対に非晶質状態の部分が多く、その中に小さな結晶の粒が多数点在しているような状態もあります。このような多くの結晶を含む状態を多結晶と言います。
図2-1は上記の3種類の形態を2次元で模式的に描いたものです。(a)は単結晶、(b)は非晶質、(c)は多結晶のイメージです。緑色の小円は原子を表しています。簡単のために1種類にしましたが、上記の二酸化ケイ素の例など2種以上の原子から構成される場合ももちろんあります。
上記の結晶の説明は原子の配列構造の面からの説明ですが、結晶特有の性質からの説明もあり得ます。これは原子などが規則正しく配列していることの結果として生じる性質です。規則性は3つの方向に対してそれぞれ異なるのが普通ですから、それが各軸方向に異なる物理特性を生じさせます。これを異方性と言います。
例えば、光学特性では偏光性などの光学異方性という性質があります。力学的には特定の方向に割れやすい劈開性などが挙げられます。ただし偏光性について言えば、結晶でなくても偏光性をもつものがいろいろありますから、注意が必要です。
液晶という物質は分子が少なくとも2次元的に方向が揃っているという性質をもっています。このため液晶は結晶の特徴の一つである光学的異方性を示します。このことから液晶も結晶の一種だという説明を見かけることがありますが、液体は流動性があるので、原子配列が一定の規則性を保つことはありません。光学特性など結晶のもつ物理的性質と共通な性質をもつからといって、液晶を結晶とみなすことはできません。最初の定義にあるように結晶は固体に限定してよいと考えられます。
なお、近年、二次元や一次元のみ規則性をもった物質が見つかり、二次元結晶、一次元結晶を呼ばれています。また準結晶とよばれる特殊な原子配列をもった物質も知られています。これらをここでは取り上げませんが、どこまでが結晶といえるのかといった議論はあまり意味がないのかもしれません。