産業/色彩の話

16.演色性

 「演色性」という語はあまり耳慣れないのではないかと思います。何を意味するのか、漢字から推測しにくい言葉ですが、照明用光源の分野においては重要な特性を示す技術用語です。

 かなり古い話ですが、日本で蛍光灯が使われ始めた1950年代のエピソードを紹介します。最初に一般の人が蛍光灯の照明に触れたのはデパートの売り場だったのではないかと思います。この蛍光灯の照明の下で選んだ服の色が帰って見ると違うというので不評を買ったことがありました。これがまさに演色性の問題です。同じ問題は白色LED光源でも起こり得ます。

 一見同じ白色に見える光でもスペクトルが異なると、それで照らされた物体が反射する光の色は異なって見えます。自然光(太陽光)と蛍光灯やLEDなど人工の照明光とではスペクトルは同じではないので、色彩の違いに非常に敏感な人間が見ると、色の違いを感じることがよく起こります。

 太陽光とまったく同じスペクトルの光を人工で作るのは不可能ではないにしても大変です。例え自然光とスペクトルの異なる人工の光を使う場合でも、自然光で照らした場合と区別が付かなければ、上記のデパートでのショッピングでも問題は起きず実用的には問題がありません。このような光源を「演色性が高い」と言いますが、演色性を向上させるのが一般の照明用光源の技術的目標のひとつになります。このため演色性を定量的に定義し実用的に問題のないレベルを決めておく必要があります。

 演色性を定量的に示す方法については国際的にはCIEが1965年に取り決めを行い、日本ではこれに準拠したJIS Z 8726 が定められています。

 演色性を定量的に示す指数として演色評価数(Color Rendering Index、CRI)\(R\) が定義されています。これは試験色を標準光源と試験光源で照明したときの色差 \(\Delta E\) を用いて次式で求められます。 \[R_{i}=100-4.6\Delta E_{i}\]

 試験色は図16-1のように 15 色が規定されていて、これに \(i=1\sim 15\) と番号を付けます。上式の \(R\) と \(\Delta E\) にはこの添え字 \(i\) を付けて試験色ごとの値を評価します。図は大体の感じを示しているだけですので、正確に演色性を評価するためには標準の色票を使わなければなりません。試験色のとくに \(i=1\sim 8\) は見た感じ純色より中間色が選ばれているようです。この辺りは長い時間をかけ、十分な検討を経て決められているので、演色性の評価にもっとも適した色が選ばれているはずです。

 JIS Z 8726 にはこの15 種類の試験色のスペクトルのデータとマンセル記号が載っています。図16-1には番号とマンセル記号も併せて示しました。\(i=9\) 以降にはマンセル記号の最後の数字クロマ(彩度を表す)が大きい色が多く、\(i=1\sim 8\) の色より鮮やかな色が多くなっているのがわかります。

 この各試験色に対する演色評価数 \(R_i \) を特殊演色評価数と言います。特殊演色評価数は色差がない(\(\Delta E=0\))とき、最大値の100 となります。そしてもう一つ平均演色評価数 \(R_a \) という指数が定義されています。これは \(i=1\sim 8\) の特殊演色評価数の平均値です。 \[R_{a}=\frac{1}{8}\sum_{i=1}^{8}R_{i}\]

 これは総合的な評価に使われます。そして追加のデータとして \(i=9 \sim 15\) の特殊演色評価数がやや極端な場合の評価としてそれぞれ必要に応じて単独で用いられます。

 つぎに色差 \(\Delta E_i \) の求め方について説明します。色差とは2つの色の違いですから、2つの色の色度座標がどのくらい離れているかで評価するのが順当な考えです。\(\mathrm{xy}\) 色度図から \(\mathrm{uv}\) 色度図へ改良が行われたのは、色の違いが色度図内の座標間の距離と一致するようにするためでした。ということは色差を表すにも \(\mathrm{uv}\) 系を使うべきことがわかります。

 ただ色差には明るさの要素も含まれますから、明るさを含んだ3次元系で考える必要があります。CIEでは1964年に「均等色空間」を提示しました。これについてはJIS Z 8726にも記載されていますが、均等色空間の座標を \(\mathrm{U}\ast\)、\(\mathrm{V}\ast\)、\(\mathrm{W}\ast\) の3次元系で表し、座標 \(\left ( u,v \right )\) の光源に照らされた \(i\) 番目の試験色の明るさ \(Y\) を加えた色度座標を \(\left ( Y_{i},u_{i},v_{i} \right )\) と表すと、変換式はつぎのようになります。 \[W_{i}^{\ast }=25\left ( Y_{i} \right )^{\frac{1}{3}}-17\] \[U_{i}^{\ast }=13W_{i}^{\ast }\left ( u_{i}-u \right )\] \[V_{i}^{\ast }=13W_{i}^{\ast }\left ( v_{i}-v \right )\]

 基準光を \(i\) 番目の試験色に照射したときの色 \(\mathrm{R}\) の座標を \(U\ast_{r,i}\)、\(V\ast_{r,i}\)、\(W\ast_{r,i}\) とし、試験光源の光を \(i\) 番目の試験色に照射したときの色 \(\mathrm{K}\) の座標 \(\mathrm{K}\) を \(U\ast_{k,i}\)、\(V\ast_{k,i}\)、\(W\ast_{k,i}\) とすると、この標準光と試験光源の照射による色差 \(\Delta E_i \) は \[\Delta E_{i}=\left \{ \left ( U_{r,i}^{\ast }-U_{k,i}^{\ast } \right )^{2} +\left ( V_{r,i}^{\ast }-V_{k,i}^{\ast } \right )^{2} +\left ( W_{r,i}^{\ast }-W_{k,i}^{\ast } \right )^{2} \right \}^{\frac{1}{2}}\] と表されます。これは色度図上の点 \(\mathrm{R}\) と点 \(\mathrm{K}\) の幾何学的距離に相当することがわかります。

 この色差は点 \(\mathrm{K}\) が黒体放射軌跡上かその近くにある場合だけに成り立ちます。\(\mathrm{K}\) が黒体放射軌跡から外れた場合には少し話が変わってきます。これはつまり光源が自然光から離れた色の着いたものである場合に相当します。この場合は演色性の観点から言えば、色差が大きくなり、演色性は低下します。

 ところが人間の感覚は視覚に限らず、環境に順応する能力があります。このため色の着いた光で照らされた環境にしばらくいると、かなり自然光環境にいたときの色の見え方に近づく傾向があります。これを色順応と言います。

 この色順応について「どうして色はみえるのか」では第2章の8に詳しく説明されています。これによると1色の色面だけを見るような条件を作り、そこに光源からの光を照射する実験を行うと、この場合には理論に沿った色の変化を人間の眼は感じます。色順応が起こるのは比較の対象になる色々な色が見えていて、かつその全体が1つの光源で照明されているような環境の場合です。自然光の屋外からオレンジ色がかった電球で照明された室内に入った場合に本来ならばかなり色が違って見えるはずなのがそれほどでもないということが起こるのです。

 色差を考える際にはこれを補正しておく、つまり色順応がない状態で考えないといけません。そこでCIEは1975年に補正方法を規定しました。その補正式はJIS Z 8726 に載っていますが、話が細かくなりますので、ここでは割愛します。

 なお、CIEは1986年にさらに \(\mathrm{L}\ast\)、\(\mathrm{u}\ast\)、\(\mathrm{v}\ast\) 系を定めました。この場合の変換式は次の通りです。これは現在のところJISには採用されていません。 \[\begin{align}L_{i}^{\ast } &= 116\left ( \frac{Y_{i}}{Y} \right )^{\frac{1}{3}}-16 \\ u_{i}^{\ast } &= 13L_{i}^{\ast }\left ( u_{i}-u \right ) \\ v_{i}^{\ast } &= 13L_{i}^{\ast }\left ( v_{i}-v \right )\end{align}\]

 色差は上式と同様に計算します。