産業/色彩の話

17.まとめ

 すでに触れたようにこれまで説明してきた色彩の理論は20世紀の前半にはその基礎が確立していました。それは例えば等色実験のように人間の視覚を丹念に調べることによってできあがってきたものです。その理論の基本的な考え方は人が感じ分ける多彩な色は三原色など少数の色の混合によって得られるというものです。

 このような理論が確立する一方で、人間を含む動物の視覚の仕組みの研究も進んできましたが、人間の眼の仕組みが明らかになってきたのは20世紀後半になってからでした。人の眼は外界からの光を水晶体と呼ばれるレンズで集光し、感光体である網膜上に像を結ぶことができる構造になっていますが、この網膜上には錐体と呼ばれる受光素子がびっしりと並んでいて、驚くことにその受光素子は受光感度の異なる3種類があることが明らかになったことです。

 人間の眼を使った実験をもとに作られた理論とはいえ、人間の眼がその理論の通り、3色を合成する仕組みをもっていたことは驚くべきことです。しかしこの3色は赤、緑、青ではなく、565nmの黄色、545nmの黄緑色、440nmの紫色の3色で、それぞれの感度をもつ錐体の数の比は40:20:1とかなり偏った割合になっていることが明らかになっていて、理論からみると意外な結果になっています。

 この3種類のスペクトルに分離された信号が視神経を通して脳に送られ、脳が色の識別を行っているわけですが、ここではこのような生体の仕組みについては立ち入りませんでした。これらについは「どうして色は見えるのか」の第3章、「色の見える仕組み」にわかりやすく書かれています。

 この「色彩の話」ですが、当初は「半導体科学・基礎」の方に分類するつもりでした。色彩を数学的な表現で表わそうとする理論的要素に注目したからです。しかし実際には各項で触れているように、色彩の表し方は工業製品の規格として定められており、製造側と利用側の双方にとって、標準として定められた色彩表示に準拠することが重要になっています。このような観点から色彩論は「半導体産業」に分類した方が適当ではないかとの考えに至りました。

 また半導体デバイスとくに発光素子との関連で色彩の考え方を説明した都合上、RGBの光を混合すると明度が上がり白色に近づく、いわゆる加色混合についてのみ説明しています。顔料、絵の具など反射色のRGBを混合すると明度が下がり黒色に近づきますが、このいわゆる減色混合には触れませんでした。必要あれば上記の参考書等を参照下さい。