産業/色彩の話

14.白色光と色温度

 人間の普通の生活には太陽光や室内の照明光など白色光が溢れています。しかし一言で白色光と言ってもすべて同じでないことも私達は知っています。人間の眼は青白い光とか少しオレンジ色かかった白色の光とかを区別する力をもっています。

 純粋な白色光は物理学的に言えば、可視光の波長範囲に一様な強度をもつスペクトルの光ですが、実際には広い波長範囲に広がっていても一様ではない強度分布をもつ種々のスペクトルの光も大括りにすれば白色光とみなされ、白色光かそうでないかの境界はあいまいです。

 このような種々の白色光を表すのにいちいちスペクトルを見比べるのでは実際的でありません。もちろん他の色と同様に色票を使って色度座標を定めればよいのですが、白色光に関しては「色温度」という便利が指標があります。

 この色温度は量子力学の端緒となったプランクの黒体放射の理論によっています。プランクは溶鉱炉内の融けた鉄が発する光のスペクトルを説明するためにこの理論を導いたと言われています。

 鉄に限らず物体を高温に加熱していくと次第に眼に見える光を出し始めます。もちろん酸素のある空気中で加熱すると大抵の物質は酸素と反応してしまうので、真空中などで加熱して物質としての変化がないような条件での加熱が必要です。さらに、入射する光をまったく反射しない理想的な物体のことを黒体と言いますが、理論上はこの黒体の温度を上げる場合を対象とします。

 プランクは実験結果に合うように仮説として式を提案したのですが、後にアインシュタインによって量子力学的にこの式を導出しました。この辺りは光の量子論を理解するには重要ですが、色彩の話としては長い寄り道になってしまうので、ここでは立ち入らずにいきなり式を挙げます。波長 \(\lambda \) における放射エネルギー \(I\left ( \lambda \right )\) は \[I\left ( \lambda \right )=\frac{8\pi hc^{2}}{\lambda ^{5}\lbrace\exp \left ( \frac{hc}{kT\lambda } \right )-1 \rbrace }\] と表されます。この式はMKS単位系で、\(h\) はプランク定数(\(6.626\times 10^{-34}\mathrm{Js}\))、\(c\) は光の速度(\(2.998\times 10^8\mathrm{m}/\mathrm{s}\))、\(k\) はボルツマン定数(\(1.381\times 10^{-23} \mathrm{J}/\mathrm{K} \))です。上式より\(I\left (\mathrm{Jm}^{-3}\mathrm{s}^{-1}\right )\) は一定の波長 \(\lambda \) に対して \(T\)(絶対温度)だけの関数であることがわかります。  

 図14-1は温度 \(T\) を3000Kから6000Kまで変えて上式をプロットしたものです。放射エネルギーはある波長 \(\lambda_m\) でピークになることがわかります。\(T\) が 5000 K以上になると放射エネルギーがピークになる波長が0.5 \(\mu\mathrm{m}\) 前後の可視域になっています。この \(I\left (\lambda \right )\) 特性がプランクより前には説明ができなかった関係です。

 この\(\lambda _{m} \) は温度 \(T\) に対して図中に破線で示すように反比例することが知られています。この関係はウィーンの法則と呼ばれ、つぎの式で表されます。 \[\lambda _{m}\left ( \mu m \right )=\frac{2880}{T\left ( K \right )}\]  以上のように黒体放射のスペクトル \(I \left (\lambda ,T \right )\) が算出されるので、これと等色関数 \(\overline{x}\left ( \lambda \right )\)、\(\overline{y}\left ( \lambda \right )\)、\(\overline{z}\left ( \lambda \right )\) を使えば、次式のより各温度における三刺激値 \(X_{T}、Y_{T}、Z_{T}\) が算出できることになります。 \[X_{T}=\int_{\lambda }\overline{x}\left ( \lambda \right )I\left ( \lambda ,T \right )\mathrm{d}\lambda\] \[Y_{T}=\int_{\lambda }\overline{y}\left ( \lambda \right )I\left ( \lambda ,T \right )\mathrm{d}\lambda\] \[Z_{T}=\int_{\lambda }\overline{z}\left ( \lambda \right )I\left ( \lambda ,T \right )\mathrm{d}\lambda\]  この計算結果は"ColorAC"で表示できます。図14-2は \(\mathrm{xy}\) 色度図中に示した黒体放射スペクトルの軌跡です。高い温度では軌跡は白色域にありますが、低温になるにしたがって軌跡は赤色領域に入っていきます。低温のスペクトルのピークは赤外域になりますが、スペクトルの短波長側が可視光域にあるので、全体としての色度座標は可視域のなかに残ります。

 色温度とは温度 \(T\) におけるプランクの黒体放射と同じ色度座標となる色を表します。なお、白色光でも黒体放射と一致しない(上記の軌跡上にない)座標を持つ場合ももちろんあります。このような色の場合は、その色度座標にもっとも近い軌跡上の点の黒体放射源の温度を色温度とみなし、これを相関色温度と呼ぶことがあります。

 なお、CIEでは色の測定の際に照射する標準の白色光を色温度(図14-2参照)で規定しています。これを標準イルミナントと呼んでいます。JISもこれにほぼ準拠した規格(JIS Z 8720)を制定しています。色の測定を行った場合にはどの標準イルミナントを使用したか明記しないといけません。

 標準イルミナントの代表的なものを紹介しておきます。イルミナント \(\mathrm{A}\) は色温度2856Kとやや低めの色温度が規定されています。これはかつての白熱電球のややオレンジ色がかった色の光を想定しています。室内照明として好まれることもあり、LED電球などでも敢えてイルミナント \(\mathrm{A}\) を採用した製品があります。イルミナント \(\mathrm{D}\) は色温度の上2桁を添え字に付けて表します。\(\mathrm{D}_{65}\) は6500Kで平均的昼光(太陽光)を想定しています。\(\mathrm{D}_{55}\) とか \(\mathrm{D}_{75}\) などもあります。イルミナント \(\mathrm{E}\) は理想的等エネルギースペクトルに相当し、色度座標が(1/3,1/3)に来ます。