産業/色彩の話
11.\(xy\) 色度図と表示色
\(xy\) 色度図の成り立ちをこれまで説明してきましたが、この色度図面内の見た目の色がどうなっているかを見ておきます。
ある \(\left (x,y \right )\) 座標に対応する色を見たいとします。これを調べるにはつぎのような手順が考えられます。まずその \(\left (x,y \right )\) 座標を \(\left (r,g \right )\) 座標に変換し、その座標に対応する \(\mathrm{RGB}\) 三刺激値 \(R\)、\(G\)、\(B\) を求めます。この \(R\)、\(G\)、\(B\) の値がわかっていれば、その色をディスプレイ上に表示する機能は、前の項で紹介しているように多くの描画ソフトに備えられていますから、各 \(\left (x,y \right )\) 座標に対応する色をディスプレイに表示して見ることができます。
\(\left ( R,G,B \right )\) から \(\left ( X,Y,Z \right )\) への変換式はすでに示しましたが、これを逆変換する式も求められますから、これがあれば上記の手順を計算することは原理的には可能です。しかし \(xy\) 平面を塗りつぶすには面を見た目に不連続が目立たない程度に細かい領域に分け、そこに対応する色を塗る必要があります。これは手作業では大変で、プログラムを作って行うのがよいと思われます。
このようなプログラムは自分で作るまでもなく、すでに内外にいくつかあるようです。ここでは"ColorAC"というフリーソフトを利用させていただきました。かなり高機能なソフトでいろいろな図が作成できますが、まずは \(xy\) 色度図を塗りつぶしてみたのが図11-1です。
\(x\) の大きいところは赤、\(y\) の大きいところは緑、原点付近は青の色味が強くなっているのがわかります。中央付近が無彩色(白)になります。各部分の色の名前は日本産業規格(JIS)にも定められています。図11-2はJIS Z 8110に載っている図で、いろいろな特許にも引用転載されています(この図は再表2005/011006より)。図11-1と図11-2を見比べると(本当は重ねて描くとよいのですが)、色とその名前の関係がよくわかるかと思います。
ところで色は人間の感覚で決まるもので等色実験によって平均的感覚と機器の表色機能が結びつけられています。機器がいかに高級な技術を使っていても、それが出力する色が入力された色と違うと人間が感じてしまえばだめなのです。ここに色に関係する機器のやっかいな点があります。例えばデジタルカメラで何か美しい風景のカラー写真を撮り、これを液晶ディスプレイに表示させた場合、眼で見た風景の生の色とディスプレイ上の色が明らかに違うとまずいわけです。さらにこの写真をプリンタで紙に印刷した場合、生の色やディスプレイ上の色と違うと気になってしまいます。
これはカメラの受光素子が入ってきた光を3原色に分け、それぞれの強度を電気信号で表します。その電気信号を液晶ディスプレイに送り、これで液晶のシャッタを開閉して 元通りに合成するのはよいのですが、出力される光はバックライトの白色光をカラーフィルタに通したものですから、このバックライトのスペクトルとカラーフィルタの透過スペクトルの組み合わせがうまくないと元の色が復元できないことになります。
\(\mathrm{xy}\) 色度図の基礎刺激値 \(\mathrm{X}\)、\(\mathrm{Y}\)、\(\mathrm{Z}\) はCIEで統一的に定義されていますが、\(\mathrm{RGB}\) 系の基礎刺激値 \(\mathrm{R}\)、\(\mathrm{G}\)、\(\mathrm{B}\) には種々のものが定義されています。色空間という語はこの定義によって定まる系のことを意味します。これまで暗黙のうちに使ってきたのはCIEにより定義された \(\mathrm{RGB}\) それぞれ単波長のものです。\(\mathrm{R}\) が 700 nm、\(\mathrm{G}\) が 546.1 nm、\(\mathrm{B}\) が 435.8 nmの単色光です。図11-1の赤線の3角形の頂点がこの座標を表していますが、各頂点は外縁の曲線上にあります。座標の数値は \(R\left ( 0.7347, 0.2653 \right )\)、\(G\left ( 0.2738, 0.7174 \right )\)、\(B\left ( 0.1666, 0.0089\right )\) です。白色の座標が \(\left ( 1/3,1/3,1/3 \right )\) になるように設定されます。
この色空間は理論上はもっともですが、現実世界には単一波長の光はあまりない(半導体光源はかなり単色光に近いものがありますが)ので、応用上はもう少し現実的な基準をとった方がいいという考え方ができます。そこで \(\mathrm{xy}\) 色度図の少し内側に\(\mathrm{RGB}\) の基礎刺激を定めた規格が多数あります。この定め方によって変換式は当然変わります。色度座標を入力して色を発する機器ではどの規格が使われているかをまちがえると正しい色が表示されません。
\(\mathrm{sRGB}\) という規格は国際電気標準会議(IEC)が定めたもので、CIEが色彩学的な合理性を志向しているのに比べ、エレクトロニクス応用を志向した規格になっています。カラーを使う機器、例えばディスプレイ(カラーモニタ)、カラープリンタ、デジタルカメラなどの多くがこの規格に従っています。図11-1に示した青色の三角形はこの \(\mathrm{sRGB}\) の基礎刺激を示しています。座標の数値は \(\mathrm{R}\left ( 0.64, 0.33 \right )\)、\(\mathrm{G}\left ( 0.30, 0.60 \right )\)、\(\mathrm{B}\left ( 0.15, 0.06 \right )\) という丸い数字になっています。白色の座標もCIEの理想値でなく、実際の標準光源に対応する座標が採られていて、1/3=0.3333から少しずれた値が採用されています。標準光源については後述します。
このほかにアドビ・システムズ社やNTSC(National Television System Committee、全米テレビジョンシステム委員会)の規格など、少しずつ異なる規格がいくつか知られていますが詳細には立ち入らないことにします。
もう一つの問題として、ガンマ値というものがあります。これは今はもうあまり使われなくなってしまった陰極線管(CRT)ディスプレイで、入力強度(電圧など)\(V_i \) と出力される光の強度 \(V_o \) が比例関係になく \[V_{o}=V_{i}^{\gamma }\] というべき乗の関係で近似的に表されたことに起因しています。指数 \(\gamma \)(ガンマ)の値をガンマ値といってこの値によって機器の特性を表します。通常は 2.2 という値が使われています(図11-3の青色の曲線)。こういう特性があることを前提にテレビ信号は予め \[V_{o}=V_{i}^{\frac{1}{\gamma }}\] という強度の関係(図11-3の赤色の曲線)を補正して送信されていました。これで出力光の強度は入力信号に比例するように補正されたわけです(図11-3の破線)。これをガンマ補正と言います。
液晶ディスプレイにはこのような特性はないのですが、CRTと併用されている場合、テレビ信号は従来通り、ガンマ補正をされたものが送られているので、液晶ディスプレイもわざわざCRTと同じガンマ値をもつように作られています。
これはモノクロCRT時代からの話でとくにカラー表示に関する課題ではありませんが、ディスプレイに色を表示する際の入力信号については考慮しておかないといけません。