産業/色彩の話
9.XYZ表色系
5項の \(\mathrm{RGB}\) 表色系の色度図は実際にはあまり見かけないと思います。特許を含め文献でよく見かけるのは \(\mathrm{XYZ}\) 表色系と呼ばれる系による色度図で、現在これが世界標準となっています。色彩の分野では国際照明委員会(CIE)という国際機関が国際規格を決めています。
\(\mathrm{XYZ}\) 表色系の特徴は \(\mathrm{RGB}\) という実際の色から離れて形式的に整った表示法を採用していることです。第一の特徴は \(\mathrm{RGB}\) 表色系のように刺激値がマイナスになることがないことです。\(\mathrm{RGB}\) 系でマイナスが出るのは、三原色の混色ですべての色が作れるとした素朴な仮定は誤りで、緑から青にかけての色は作ることができなかったためです。
実際の三原色ではできなかったので \(\mathrm{XYZ}\) 表色系では架空の \(\mathrm{X}\)、\(\mathrm{Y}\)、\(\mathrm{Z}\) という基礎刺激を導入してすべての色をプラスの刺激値で表せるようにしました。これは \(\mathrm{RGB}\) 系を数学的に変換することによって作られたものです。
この変換の方法はつぎのようなものです。図9-1の青色の曲線は5項で示した \(\mathrm{RGB}\) 系の色度図ですが、これに接する3本の直線(赤色で示す)を引き、その3つの交点をそれぞれ \(\mathrm{X}\)、\(\mathrm{Y}\)、\(\mathrm{Z}\) とします。
この直線の引き方ですが、\(\mathrm{R}\) と \(\mathrm{G}\) の間は直線ですので、これに重ねてまず1本の直線を引きます。
つぎに \(\mathrm{R}\) と \(\mathrm{B}\) に近いところには以下のような方法で直線を定めます。\(\mathrm{RGB}\) 系での明るさ \(L\) は \[L=RL_{r}+GL_{g}+BL_{b}\] で表されます。ここで \(L=0\) と置き、色度座標 \(r\)、\(g\)、\(b\) を用いると \[rL_{r}+gL_{g}+bL_{b}=0\] となります。ここで \(L_r\)、\(L_g\)、\(L_b\) の比は \(1:4.5947:0.0601\) であることがわかっていますので、これを代入すると \[0.9399r+4.5306g+0.0601=0\] という \(r\) と \(g\) の関係式(直線)が得られます。これは明るさが 0 の色度点の軌跡で、無輝線とよばれています。この直線を2本目とします。
もう1本はマイナス側でもっとも曲がり(曲率)の小さい504nmの点での接線とします。こうして引いた3本の直線の交点を、図9-1に示すようにそれぞれ \(X\)、\(Y\)、\(Z\) とします。\(X\)、\(Y\)、\(Z\) の \(\left (r,g \right )\) 座標はつぎの通りです。 \[X \left ( 1.2750,-0.2778 \right )~~~~~Y \left (-1.7392, 2.7671 \right )~~~~~ Z \left (-0.7431, 0.1409 \right )\]
そしてこの \(X\) と \(Y\) をそれぞれ直交する軸上にくるように座標変換したのが図9-2に示すような \(\mathrm{XYZ}\) 表色系の \(x-y\) 色度図です。この色度座標はCIEの規格で、日本産業規格(JIS)にもそのまま採用されています(1)。
上記のように \(\mathrm{XZ}\) を無輝線上にもってきたため、\(\mathrm{X}\) と \(\mathrm{Z}\) は明るさをもっていません。明るさをもっているのは \(\mathrm{Y}\) だけということになります。実際の色で明るさがないなどということはありえませんから、このこと自体も数学的な架空のことになります。
ただ強いて言えば、\(\mathrm{XYZ}\) は \(\mathrm{RGB}\) に何となく対応しています。人間の視感度は \(G\) がもっとも大きいので、\(G\) に対応する \(Y\) にすべての明るさを入れ込んだことも何となく納得できるかと思います。
以上、\(\mathrm{RGB}\) 系から \(\mathrm{XYZ}\) 系への変換について説明しましたが、結論として得られる変換式はつぎのようになります。三刺激値 \(X\)、\(Y\)、\(Z\) は \(R\)、\(G\)、\(B\) から次の変換式を使って求められます。 \[\begin{align}X &= 2.7689R+1.7517G+1.1302B \\ Y &= 1.0000R+4.5907G+0.0601B \\ Z &= 0.0560G+5.5943B\end{align}\]
一方、色度座標(\(x,y\))については次式によって(\(r,g\))からの変換ができます。 \[x=\frac{1.1302+1.6387r+0.6215g}{6.7846-3.0157r-0.3857g}\] \[y=\frac{0.0601+0.9399r+4.5309g}{6.7846-3.0157r-0.3857g}\] ここで \[x+y+z=1\] が成り立ちます。
\(\mathrm{XYZ}\)表色系における明るさ \(L\) はどうなるかというと、原刺激 \(X\)、\(Y\)、\(Z\) の明度係数を \(L_x \)、\(L_y \)、\(L_z \) とすると \[L=L_{x}\mathrm{X}+L_{y}\mathrm{Y}+L_{z}\mathrm{Z}\] と表されますが、上記の条件から \[\begin{align}L_{z} &= 0 \\ L_{y} &= 1\end{align}\] です。
波長 \(\lambda \) の光の明るさは比視感度 \(V_{\lambda}\) であるので \[V_{\lambda }=L_{x}\overline{x_{\lambda }}+L_{y}\overline{y_{\lambda }}+L_{z}\overline{z_{\lambda }}=\overline{y_{\lambda }}\] となります。ここで \(\overline{x_{\lambda }}\)、\(\overline{y_{\lambda }}\)、\(\overline{z_{\lambda }}\) は\(\mathrm{XYZ}\) 表色系における波長 \(\lambda \) に対する三刺激値です。
この三刺激値と波長 \(\lambda \) の光の色度座標 \(x_{\lambda}\)、\(y_{\lambda}\)、\(z_{\lambda}\) の間には \[\frac{\overline{x_{\lambda }}}{x_{\lambda }}=\frac{\overline{y_{\lambda }}}{y_{\lambda }}=\frac{\overline{z_{\lambda }}}{z_{\lambda }}\] の関係があるので、 \[\begin{align}\overline{x_{\lambda }} &= \frac{x_{\lambda }}{y_{\lambda }}V_{\lambda } \\ \overline{y_{\lambda }} &=V_{\lambda } \\ \overline{z_{\lambda }} &= \frac{z_{\lambda }}{y_{\lambda }}V_{\lambda }\end{align}\] と書けます。これより \(\mathrm{RGB}\) 系の等色関数に対応する \(\mathrm{XYZ}\) 表色系の等色関数が求められます。結果は図9-2のようになります。\(\mathrm{XYZ}\) 表色系では三刺激値はすべて正の値をとることがわかります。
(1) JIS Z 8701「色の表示方法-XYZ表色系及びX10Y10Z10表色系」