産業/色彩の話

8.等色関数

 5項の「RGB表色系」のところで先走って掲載したギルド-ライト曲線(図5-2)についてもう少し説明を加えておきます。少し手を加えた図を改めて図8-1として示します。この図は横軸上の任意の波長の光を \(\mathrm{R} \) (700nm)、\(\mathrm{G} \) (546.3nm)、\(\mathrm{B} \) (435.9nm) の3つの波長の光によって等色するとき、この3つの光の寄与の割合を示しています。

 この図の3つの曲線 \(\bar{r}\left ( \lambda \right )\)、\(\bar{g}\left ( \lambda \right )\)、\(\bar{b}\left ( \lambda \right )\) は等色実験から得られる三刺激値で、「等色関数」と呼ばれます。

 具体的な例で言うと、例えば破線で示した波長570nm付近の光は \(\mathrm{R}\) と \(\mathrm{G}\) の2つの光をほぼ同じくらいの強さで混色し、\(\mathrm{B}\) はほとんど使わないで等色にできることが示されています。また波長500nmくらいの光は \(\mathrm{G}\) と \(\mathrm{B}\) をほぼ同じ強さにし、\(\mathrm{R}\) はマイナスにしないと等色にできないことがわかります。マイナスというのは前にも説明したように、この例なら波長500nmの光の側に \(\mathrm{R}\) を加えるということを意味します。

 ところでこの等色関数は、\(\mathrm{RGB}\) 3つの光を同じ強さにして混色すると波長によって強さの変化しない白色光のスペクトルが得られるという条件を前提にして算出されています。言い換えれば、3つの波長の光のエネルギーがそれぞれ等しいということで、式としての条件は次式が成り立つということになります。 \[\int \bar{r}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda =\int \bar{g}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda=\int \bar{b}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda\]

 この等色関数の意義は実際の光の色度座標を求めるための基礎データになることにあります。実際の光とは特定の波長特性(スペクトル)をもった光源の光、あるいはその光が何らかの物体に当たって反射してくる光のことです。

 特定の光源からの光が物体、たとえばスクリーンに当たって反射している場合には、光源のスペクトル特性 \(s_{\lambda}\) と物体の反射スペクトル特性 \(\rho_{\lambda}\) を等色関数にかけたものが眼に入る光の刺激値になります。波長 \(\lambda\) では \[r_{\lambda }=s_{\lambda }\cdot \rho_{\lambda }\cdot \bar{r}\left ( \lambda \right )\] \[g_{\lambda }=s_{\lambda }\cdot \rho_{\lambda }\cdot \bar{g}\left ( \lambda \right )\] \[b_{\lambda }=s_{\lambda }\cdot \rho _{\lambda }\cdot \bar{b}\left ( \lambda \right )\] と書けます。

 ここで \(s_{\lambda}\) は光源の波長 \(\lambda \) における放射パワーで、分光放射パワーと呼ばれます。これは光源の特性で決まる量です。また \(\rho_{\lambda}\) は波長 \(\lambda \) の光が照射される面での反射率で分光反射率と呼ばれ、こちらは光の照射面の性質で決まる量です。

 ただし実際に眼でものを見るときは波長全域の光が目に入るので、可視光波長全域にわたって積分したものが光源からの光が物体で反射して眼に入った光の三刺激値 \(R\)、\(G\)、\(B\) となります。

\[R=K\int_{\lambda }s_{\lambda }\cdot \rho _{\lambda }\cdot \bar{r}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda\] \[G=K\int_{\lambda }s_{\lambda }\cdot \rho _{\lambda }\cdot \bar{g}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda\] \[B=K\int_{\lambda }s_{\lambda }\cdot \rho _{\lambda }\cdot \bar{b}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda\] ここで \(K\) は定数です。

 光源の光を直接見る場合は、反射率は関係がなくなります。この場合はつぎのような式が成り立つことになります。

\[R=K\int_{\lambda }s_{\lambda }\cdot \bar{r}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda\] \[G=K\int_{\lambda }s_{\lambda }\cdot \bar{g}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda\] \[B=K\int_{\lambda }s_{\lambda }\cdot \bar{b}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda\]

 上式による計算は積分が入っているので難しいように見えますが、実際にはいくつかの波長で計算し、積算することによってかなりの精度で刺激値が算出できます。

 もし光源が理想的な波長 \(\lambda_0 \) の単色光である場合は \[R=K\int \delta \left ( \lambda -\lambda _{0} \right )\bar{r}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda =K\bar{r}\left ( \lambda _{0} \right )\] \[G=K\int \delta \left ( \lambda -\lambda _{0} \right )\bar{g}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda =K\bar{g}\left ( \lambda _{0} \right )\] \[B=K\int \delta \left ( \lambda -\lambda _{0} \right )\bar{b}\left ( \lambda \right )\mathrm{d}\lambda =K\bar{b}\left ( \lambda _{0} \right )\] と簡単になります。