産業/色彩の話
3.マンセル表色系
色相、明度、彩度の3要素を使って色に番号付けを行ったのがマンセル表色系です。マンセルとは人名で、アメリカの画家 Albert H. Munsell がこの表色系の原形を考案しました。
3つの要素がありますから、2次元では表現できず、3次元で表されています。色立体と呼ばれる不思議な形をした立体を学校の図工室で見た憶えのある方もいらっしゃるでしょう。
まず色相はマンセル表色系ではヒュー(hue,H)と呼びますが、前項で図示したように円環状に並べます。まず円周を5等分して赤(R)、黄(Y)、緑(G)、青(B)、紫(P)の5色を右回り(時計回り)に配置します。つぎに隣合う色の中間の色を 5 色とります。橙(YR)、黄緑(GY)、青緑(BG)、青紫(PB)、赤紫(RP)の5色です。これで円周は 10 等分され、一つの色に角度にして 36 度が割り当てられることになります。
さらにこの10色にそれぞれ右回りに 0~10 の目盛りを付けて細分します。この数字の10の位置は次隣の色の 0 と重なる境界に位置します。数字 5 の位置はその色の中央、端から18度の位置で、これが各色の中心の色になります。このヒューを表す数字は整数には限らず、色相の変化を連続的に表します。
図3-1は一つの色を4等分し、\(H=2.5, 5, 7.5, 10\) の各色を示しています。この位なら隣の色との違いを大体認識できるかと思います(なかでは赤紫~赤の色の隣同士が識別しにくいように感じますが個人差でしょうか)。
そしてこの円の中心を無彩色(記号はN)にして半径方向に内に向かうにつれて彩度(マンセル表式系ではクロマ(chroma,C)と言います)が低下するように色を配置します。一番外側にはもっとも鮮やかな色が置かれます。番号は内側の無彩色を 0 とし、外側に向かって大きくなるように付けます。
明度(バリュー(value,V)と言います)の大小はこの円の面に垂直な方向にとります。これで3次元の立体ができます。中心軸は無彩色ですから一番上に白色、一番下を黒色とします。明度の番号として黒を 0、白を 10 にとり、全体を10等分します。これで円の半径方向に沿った直線上には色相、明度が変わらず、彩度だけが変化した色が並ぶことになります。しかし彩度は白みの強さによって変化しますから、色相環の円の面に垂直な方向に彩度が一定な色が並ぶわけではない点に注意が必要です。
マンゼル表色系では色は連続的に変化しているのではなく段階的に変化しています。これは隣合う色の差(色差)を一定になるように色を並べているためです。どのように色の差を決めたかというと、これは人の感覚です。これでは個人差によってばらばらになってしまいそうですが、実際には多くの人が納得する色の並びにまとまるのだそうです。
このマンセル表色系の色立体を縦に切った断面の一例を図3-2に示します。ちょうど図3-1の上下に当たる 5R と 5BG の面について示します。この例では赤(R)は縦軸の明度 V が低いところにもっとも鮮やかな(彩度の高い)色があり、青緑(BG)は明度が高い(白みの強い)ところでもっとも鮮やかになっています。また彩度Cの数字自体は赤の方がかなり大きくなっています。
Rで出っ張っている位置とBGで出っ張っている位置は異なり、また色が存在しない部分も色相によってちがいます。一般に色立体の外側への出っ張り方は色相によって異なります。このため色立体は奇妙にでこぼこした形になります。
なぜこのような形になるのか疑問が起こると思います。これに対してはさきに挙げた本を見てもどうもあまりはっきりした答が得られません。人の感覚ではこの色立体の外側にくる色はありえないとしか言うしかないようです。
なお、マンセル表色系での色の指定の仕方(背番号の付け方)はつぎのようにします。 まず色相(ヒュー、H)を 5R とか 2.5BG のように指定します。つぎに明度(バリュー、V)の数字と彩度(クロマ、C)の数字を並べますが、2つの数字の間に斜線(スラッシュ)/を入れて区切ります。例えば、図3-2のもっとも鮮やかな色は 5R5/16、5BG9/8~5BG7/8 ということになります。
最後に、図3-1、3-2の作成方法に触れておきます。マンセル表色系の色立体にある各色をRGB系で表したデータはネット上で入手できます。一方、大体の描画機能のあるソフトウェアにはRGBの数値で色を指定して塗ることができる機能がありますからRGBの各値がわかれば色を塗ることができます。図3-1、3-2はとも表計算ソフト、エクセルの描画機能を使って作成しました。なお、図3-1の各色は色相5でもっとも彩度が高い色を選んであります。RGB系については以下の項で説明します。