電子デバイス/薄膜トランジスタ

 

6.液晶ディスプレイ

 TFTの用途はというと、現状ではほとんどディスプレイ用といってよいと思われます。それも液晶ディスプレイ用がほとんどです(最近は有機ELディスプレイ用もありますが)。液晶ディスプレイになぜTFTが使われるのでしょうか。少し脇道に逸れますが、まずは液晶ディスプレイの原理について触れておきましょう。

 図6-1は液晶ディスプレイの構造を説明するためのごく簡略化した断面図です。液晶層は液体なので、ガラス板に挟み、図には描いていませんが、横側も密閉して液晶がこぼれないようにしてあります。この液晶の容器を液晶セルと呼んでいます。両方のガラス板の内側の表面には電極が着いています。この電極は透明でなければなりません。

 図では下側の電極は3つだけ描かれていますが、これは説明に必要な分だけ描いたもので、実際には画素に応じて設けられます。平面ディスプレイ(フラットパネルディスプレイ)の場合は画素は正方形に近い形をしていてガラス板上に碁盤の目のように多数並べられます。数字表示用の場合は、1字分7画素が8の字の形に配列されます。画素は目的に応じて必要な数、必要な位置に並べて設けられます。上側の電極は下側の3つの電極の対極で、共通でよいので全面に描かれています。

 液晶層には液晶分子が模式的に描かれています。実際は数個の分子が浮かんでいるのではなく、液晶層全体がこの分子でできています。液晶はその名の通り液体状の物質で、固体の物質とちがって分子は流動可能です。でも同じ液体の水やアルコールなどと違うのは、液晶分子は有機物質で水などに比べると分子が大きく、図のようにやや細長い形をもっています。球形などでなく細長いので、分子に向きがあり、近くの分子と影響しあって互いに同じような向きに並ぶ性質をもっています。液体の結晶、液晶と呼ばれているのはこのためです。

 この分子の向きは電極に電圧をかけることによって変えることができます。図の左側の電極には電圧がかかっていないとすると、この部分の液晶分子は図のように電極に平行になるように揃います。十分高い電圧をかけると右側の電極部分のように液晶分子は垂直方向に向きを変えます。この揃った向きに分子が並ぶことを配向と言います。電圧が低いと中間の斜め方向に向きます。これは説明をわかりやすくするために単純にしましたが、液晶にも種類があり、この並び方にもいろいろな種類があります。ここでは詳しいことには立ち入りません。

 いずれにしても液晶ディスプレイは電圧によって液晶分子の方向が変えられることを利用しています。ところが実際に電極を着けた容器に液晶を入れ、電圧をかけても見た目の変化はほとんどなく、分子の並び方の変化は外観上ほとんど検知できません。それではディスプレイにするにはどうしたらよいでしょうか。

 図6-1をみると、上下のガラス板の電極と反対側の表面には偏光板が設けられています。この偏光板はある方向に偏光した光だけを通す機能をもった光学部品です。光は電磁波です。電磁波は電界と磁界の振動が波として空間を伝わっていくものです。一つの波の電界の振動する方向は一定方向に決まっています。ところが普通の光(太陽光や照明の光)はいろいろな方向の振動をもった多数の波が混じり合った光です。このような光は無偏光な光といいますが、この無偏光の光を偏光板に通すと、一定方向に振動する光のみが通過します。この出てくる光を偏光した光と言います。詳細は省略しますが、この液晶用に使われる偏光板自体も有機フィルム中に細長い分子を一定の方向に並べるようにして作られたものが多いようです。上下2枚の偏光板は、偏光を通す方向が上下の偏光板で直交することが重要で、そのようになるようにガラス板に接着されます。

 面状の光源(バックライトと呼ばれます)から出た光は無偏光の白色光ですが、最初の偏光板を通ると、偏光方向が1方向に揃った状態になります。この光が液晶層をそのまま通過して反対側の偏光板に入ると、この偏光板の偏光方向は最初のものと直交するようにしてありますから、入射した光はこの偏光板を通過できず遮断されます。

 液晶分子の方向はこの偏光に影響を与えます。例えば分子が電極に平行方向に揃っていると偏光は90°変わります。この場合、光は第2の偏光板を通過できるようになります。これを利用すれば、液晶にかける電圧によって通過する光をコントロールできることになります。

 数字の表示などの場合は明暗の2値でよいですが、カラーの画像表示の場合は中間の明るさも必要になります。この場合は電圧を調整することにより、液晶の向きを中央の電極のように斜め方向にすれば、偏光の変化は90°より小さくなり、光は一部通過できる状態となり、中間の明るさを出すことができます。図6-1の最上部の枠内は各画素ごとの様子を示しています。

 なお図には描かれていませんが、電極の表面には1方向に細かい溝が作られている場合があります。これを配向膜などと呼びますが、液晶は近くにこのようなものがあると、それに影響されて分子がその向きに並ぶ性質があります。電圧がかかっていないときに分子の向きを揃えておいた方がよいので配向膜を設けることが多いようです。もちろん電極の間に電圧をかけると、液晶の並び方は電位差に応じて変化します。

 以上のように液晶自身は偏光の性質を利用して光の通過をオンオフするだけです。モノクロの数字表示はこれだけでよいですが、カラーの画像を表示することはできません。カラーを表示するには図6-2のようにカラーフィルタを使います。光源(バックライト)の白色光にカラーフィルタで赤(R)、緑(G)、青(B)の三原色に着色し、それぞれの色について液晶をコントロールして光の強度を変えたうえで混色し所望の色を表示をします。

 図のように1画素をRGBのカラーフィルターで3分割し、RGBのそれぞれの部分の液晶を表示する画素の色の情報に基づいてコントロールし、画素の色が再現するようにします。典型的にはRGBそれぞれに8ビットすなわち2=256段階の強度に分けます。この場合は256=1677万色の表示が可能となります。人間の眼ではとても見分けられない色の種類が表示できることになります。

 さてTFTはこの項の図には登場していませんが、それぞれの電極に設けられ、各画素にかかる電圧をオン、オフしているのです。TFTを用いたアクティブマトリックス液晶ディスプレイについては次項で説明します。