電子デバイス/絶縁ゲート電界効果トランジスタ

13.CMOS素子の作り方(その1、フォトリソグラフィー)

 しばらくIGFETを使った電子回路の話が続きましたが、デバイスに話を戻しましょう。CMOSをどうやって1つのデバイスとして作るか、という話をします。CMOSはIGFETを使ったICの基本構成として広く使われていますが、それを作る手順はかなり複雑です。このため、作り方について多くの技術開発が行われ改良がなされました。1975年前後にはCMOSの製造方法に関する特許出願が多くなされています。ここでは製造方法の改良の歴史には立ち入らず、基本的な手順について説明します。この基本的手順はIGFETを使ったICの製造に共通に使われている技術ですから、これを知っていれば大体大丈夫です。

 図13-1を見て下さい。これは基本的な作り方を手順を追って説明するための図です(1)。図の(a)から(g)はCMOSの基本的な作製手順を示しています。まず(g)を参照して下さい。これがCMOSの完成断面図です。基板がn型シリコンだとすると、右側にあるのがpチャンネルIGFETです。左側のグレーの矩形領域はこの部分だけ基板がp型になっていますので、この中にnチャンネルIGFETを作ることができます。それでは(a)から順に作り方を見ていきましょう。この項は(a)、(b)までの説明になります。

 (a)はn型シリコン基板上全面にSiO膜を形成した状態を示しています。シリコン基板の表面を鏡面に磨いたのち、よく洗浄して汚れを取り除いた後、酸素雰囲気中で1000℃程度に加熱すると、表面が酸化されて一定の厚さのSiO膜ができます。

 つぎに(b)のようにこのSiO膜の一部に穴をあけてシリコン基板を露出させます。この穴を開けるにはどうすればよいでしょうか。

 一つには(a)を作るときに不要な部分にSiO膜ができないように予めカバーをしておくという手が考えられます。しかしこの場合、上記のように基板は1000℃前後の高温に加熱されるので、それでも大丈夫な材料でカバーしなければなりません。これは結構むずかしいので、普通はこの手は使われません。もう一つの手は(a)のように基板表面全面にSiO膜を付けてしまい、後から不要な部分の膜を取り除く方法です。普通はこの方法が使われます。

 もっともよく用いられるSiO膜に穴を開ける方法はフォトリソグラフィーとエッチングを組み合わせた方法です。この方法は半導体デバイスを作るときに頻繁に使われる基本的な技術です。

 図13-2を参照してください。(a)図13-1(a)と同じです。また(b)図13-1(b)と同じで(a)から(b)を作るには図13-2(a-1)から(a-5)の工程が必要です。順に説明しましょう。

 まずSiO膜の表面にフォトレジストと呼ばれる感光性の樹脂を塗布します(a-1)。これは感光性の樹脂です。光に感じる樹脂ですが、どういう感じ方かというと、光があたると分子構造が変わります。そして変わった部分だけが、特定の溶剤に溶けるようになります(逆に光があたった部分だけが溶けなくなる場合もあります)。このようなフォトレジストをSiO膜の付いたシリコンウェハに薄く一様に塗ります。

 これにはスピン塗布という方法が代表的で、スピナーという装置が使われます。しっかりシリコンウェハを固定し、それに液状のフォトレジストを垂らしこれを高速で回転させます。不要な液ははね飛ばされてシリコンウェハ上に一様なフォトレジストの膜が付きます。液状のフォトレジストは少し加熱すると固まります。

 つぎにこのフォトレジスト膜に穴を開けます。そのためにフォトマスクというものを用意します。これはSiO膜に穴を開ける部分の上にあるフォトレジストの部分にだけ光をあて、他の部分には光があたらないように遮るはたらきをします。原始的にはつぎのようにして作ります。大きな紙に拡大した穴の形の部分を黒く塗った図を描きます。これをフィルムカメラで写真に撮ります。このフィルムを現像してネガフィルムを作ると、これは最初の図と黒白が反転し、また大きさも縮小されていますので、これがマスクとして使えます。

 フォトマスクが用意できたら、フォトリソグラフィーの工程に入ります。フォトリソグラフィーはほとんど写真(フィルム写真)の露光と現像の技術と同じです。フォトレジストを塗った基板にフォトマスクを被せ、上から紫外線をあてます(a-2)。すると光の当たった部分のフォトレジストが決められた溶剤に漬けると、その部分のフォトレジストだけが溶けるように変化します(a-3、露光)。

 これを決められた溶剤につけると、(a-4)のようにフォトレジストにフォトマスクの形と同じ形の穴が開き、下地のSiO膜が露出します(現像)。このようなフォトレジストをポジ型と言いますが、逆に光が当たらなかった部分が溶けるネガ型のフォトレジストもあります。工程上都合がよい方を使うことができますが、フォトマスクのパターンはフォトレジストのタイプに合わせて用意する必要があります。

 つぎにSiO膜に穴を開けるわけですが、普通は化学的に薬品によって溶かして取り除きます。これを湿式のエッチング法(ウェットエッチング)と呼んでいます。しかしSiOはガラスの主成分ですから、これを溶かす薬品はそうはありません。強い酸やアルカリもガラス瓶に入っていますが、瓶に穴が開くようなことはありません。ほとんど唯一、SiOを溶かす薬剤として知られているのがフッ化水素(HF)を水に溶かしたフッ化水素酸水溶液で、SiOの化学エッチング用に使われます。

 このフッ化水素酸は樹脂は溶かしません。またシリコンも溶かしません。ですからこれに漬けてもフォトレジストは溶けず、シリコン基板も溶けず、露出したSiO膜だけが溶けてなくなります(a-5)。最後に不要なフォトレジストを取り除いてやっと(b)図13-1(b))ができました。

(1)例えば、特開昭49-75288号