電子デバイス/絶縁ゲート電界効果トランジスタ

1.はじめに

  世の中の電子機器はめまぐるしい発展を続けていますが、トランジスタがこれらに主として使われる半導体デバイスの中心的な存在であることは変わっていません。言い換えれば現代のエレクトロニクス世界はトランジスタによって支えられていると言えます。

 そのトランジスタがどんなはたらきをしているかと言えば、音声などのアナログ信号に対しては増幅機能があります。例えば電波に乗ってやってくる微弱な信号を増幅し、スピーカを振動させて人間の耳に聞きとれるようにする、といったはたらきです。またコンピュータなどのデジタル信号の1と0はスイッチのオンとオフに対応しますが、トランジスタはそのスイッチのはたらきを電気信号を使って実現できます。このような訳ですから、ほとんどの電子機器がトランジスタによって動いていると言ってよいでしょう。

 このトランジスタですが、大きく分けてバイポーラトランジスタ(Bipolar Junction Transistor)と電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor、FET)の2種類があります。両方とも上のような機能はもっていますが、素子の構造も動作原理もかなりちがっています。そこでここでは章を分けてそれぞれについて詳述したいと思います。この章では電界効果トランジスタのなかの絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(Insulated Gate Field Effect Transistor、IGFET)について取り上げます。

 トランジスタはよく知られているようにアメリカのベル研究所でウイリアム・ショックレーのグループによって発明されましたが(1948年発表)、これは後のバイポーラトランジスタの原形となりました。ところが現在の電子機器に多く使われているのはIGFETです。コンピュータの中央処理装置(CPU)に代表される複雑な電子回路を実現するのに何十万個という数のトランジスタを1つのチップに詰め込んだ集積回路(IC)が使われます。多くのトランジスタを集積化するためにはバイポーラトランジスタよりIGFETの方が容易なのです。

 このIGFETのアイデアはショックレー以前の1930年代にすでにあったと言われています。ところが後で説明しますが、IGFETは当時の技術では作るのが難しく、原理的なアイデアの提案から実際に物ができるまで20年もギャップが空いてしまうことになりました。このためもあってIGFETについては「発明物語」として語られることはほとんどありません。

 IGFETはMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor、モスフェットと発音することがあります)と呼ばれる方がかつては普通でした(あるいは今でも変わっていないかも知れません)。このトランジスタのほとんどは半導体はシリコン、ゲート絶縁膜はシリコンを酸化した二酸化ケイ素(SiO2)でできています。このことから金属電極(Metal)-酸化物(Oxide)-半導体(Semiconductor)の3層構造の頭文字をとってMOSという略称が定着しました。これに比べてIGFETという呼び方はそれほど一般的ではないかもしれませんが、絶縁ゲート型という素子構造を的確に表しているという理由から、ここではこの略称を使用することにしました。