光デバイス/発光ダイオード

58.カラーエレクトロルミネッセンスディスプレイ

 これまで単色の発光をする電界発光素子を前提に説明してきましたが、もちろん赤、緑、青の三原色の発光が得られれば、フルカラーディスプレイが実現できることになります。

 電界発光素子の発光色はベース材料と添加される賦活元素の組み合わせで決まります。ベースとなる材料は通常大きなバンドギャップエネルギーをもっていて可視光に対して透明なもので、薄膜型のためには薄膜が作りやすい材料が選ばれます。

 発光はこのなかに添加する元素によって起こります。発光ダイオードのようにバンド間遷移による発光ではなく、添加されている希土類などの原子の内殻遷移によって起こります。蛍光体の発光原理と基本的には同じです。ただし蛍光は光励起による発光ですが、電界発光は電界の印加によって電子、正孔が供給される点が異なります。

 具体的な例を挙げます。図58-1は文献(1)に示された三原色発光をさせるための薄膜型電界発光素子の断面構造を概略示しています。3層の発光層がそれぞれ異なる発光スペクトルをもち、積層されています。基板は透明なガラスで、その上に透明電極が形成されています。発光層の上下は保護層(絶縁層)に覆われています。この上に電極が形成されています。

 発光層1はZnS:Mn、発光層2はSrS:Tb(Tbはテルビウム)またはZnS;Tb、発光層3はSrS:Ce(Ceはセリウム)とされています。発光スペクトルの主要部分を担っているのは発光層1と3です。発光層1のZnS:Mnは長波長側の波長550~640nm程度の波長域で発光します。ほぼ橙色に相当します。また発光層3のSrS:Ceは短波長側の波長450~550nmで発光します。青~青緑の発光色です。したがってこの2層でほぼ可視光の範囲の発光がカバーされます。

 発光層2は上記2層では弱いスペクトル範囲を補うために設けられるもので、発光層1、3に比べて狭い範囲の発光波長をもつ材料が選ばれます。Tbによれば543nm付近に鋭い発光スペプトルが得られることが知られています。

 ただこの層構造だけでは各層の発光が混色しますから色を変えることはできず、白色発光となります。そこで文献(1)では、この発光素子の上にRGB3色のフィルタをそれぞれ設け、それによって三原色を出しています。画素による発光のオンオフは図58-1の下側の上面図に示すように縦横に交差するような上下の電極の間に発光層を挟むことで行うことができます。

 もちろん発光ダイオードのところで述べたように(49項参照)、RGB3色の発光層を近接して横方向に配置し、それをさらにマトリックス状に配列すれば、スイッチング素子を用いてフルカラーの発光をカラーフィルターなしで実現できることはすぐに考えることができます。

 なお、文献(2)によれば、CaS:Euにより赤、CaS;Ceにより緑、SrS;Ceにより青、のかなり純度の高い発光色が得られることも知られています。

 この無機材料の薄膜を使った電界発光素子のディスプレイは実用の域に達し、少なくとも単色のディスプレイを搭載した製品は世に出ましたが、1990年代になって有機ELの開発が活発になり、次第に勢いを失ってしまいました。

(1)特開平3-187191号
(2)小林洋二、田中省作:応用物理、55巻、p.131-133 (1986)