光デバイス/発光ダイオード

41.光学素子(その1,コリメータ)

 発光ダイオードは人の眼からみれば非常に小さく、ほぼ点光源とみなせ、1点からあらゆる方向に広がる光を出します。実際の光源としては一つの方向に光を取り出したいことが多いので、例えば反射体など何らかの光学要素を組み合わせて出射光を得る場合が多くなります。

 このような光学要素は発光ダイオードパッケージとは別に用意して組み合わせてもよいですが、パッケージと一体に組み込んでしまった方が位置合わせが不要になりますし、小型にできるという利点があります。

 光学要素の機能としては、反射機能、集光機能、光拡散機能、光路変換機能などがあります。波長変換機能もこのなかに入ると思います。

 反射体(リフレクタ)は多くのパッケージに組み込まれ、四方に広がる光を曲げて1方向に集める役割をします。発光ダイオードの光を光ファイバなどへ結合したい場合は集光機能が必要でレンズが組み合わされます。逆に光を広げたい場合にもレンズが使われます。また光を特定の方向に出射させたい場合にも反射体あるいはプリスムが組み合わされます。

 多くの一般的な製品では、レンズやリフレクタが設けられていても、その機能はそれほど厳密なものでなく、ある程度集光や発光強度の増強ができればよいといった考えで作られていると思われます。もう少し厳密な集光がしたい場合は光学的な設計が必要になります。

 そのような光学設計のためには、発光ダイオードパッケージからの出射光が平行光になっていると便利です。広がる光を平行光に変換することをコリメート(collimate、「視準」という日本語もあります)といい、その機能をもった光学素子をコリメータ(collimator)と言います。

 よく知られていることですが、図41-1(a)のように点光源を凸レンズの焦点に置くと、レンズ通過後の光は平行光になります。反対に平行光に凸レンズを入れれば、そのレンズの焦点位置に集光ができます。また凹レンズを使えば、発散光も得られます。(a)の光学系をパッケージにそのまま適用すると(b)のようになります。LEDチップが基板に設けた凹部内に固定され、LEDチップの表面にレンズの焦点位置がくるように調節されています。

 しかし発光ダイオードからの広がった光を無駄なく利用しようとすると、口径の大きなレンズを使う必要があります。これは装置の大型化を招くので、小型で発光ダイオードの出射光を無駄なく利用できるように種々の工夫がなされています。

 図41-2はレンズ付きパッケージの一例(1)を示す断面図ですが、LEDチップの上面から上方に向かって発散する出射光を透明樹脂の中央部に作り込んだ小さなレンズでコリメートしている点は図41-1(b)と同様です。

 一方、LEDチップの側面から横方向へ出射する光は基板凹部の斜面で反射して上方へ曲げられています。透明樹脂の表面はレンズの周囲では平面になっていて、射面で反射された光は透明樹脂の表面で屈折されずに出射されます。

 これはLEDチップの上面から出射する光はレンズでコリメートし、側面から出射する光は反射を利用して折り返すことにより、出射光を全体的に平行光とするために工夫された構造です。

 ただし透明樹脂の表面にLEDチップの表面に焦点位置が来るようなレンズを形成することは難しいと思われます。またLEDチップの側面から出射される横方向への光は平面反射鏡で折り返すだけですから、初めから平行光でないと出射光も平行光にはなりません。LEDチップの側面から出る光も実際には広がる光のはずなので、出射光は完全な平行光にはならないと思われます。このような簡単な構造ではLEDの発する発散光をいくらか平行光に近づけるといった程度のことしかできないと考えた方がよいでしょう。

 図41-3に示す例(2)は、図41-2の場合と同様な考え方で、より厳密に平行光を出射しようとするものです。そのために特殊な形の光学素子を設計しています。透明な光学素子の中央部分には凸レンズがあって、このレンズの焦点位置にLEDチップが置かれるようになっていますから、LEDが上方に発する光は平行光になります。またLEDの側面から出て横方向に向かう光は光学素子の外側の表面での全反射によって上方に曲げられます。光学素子の外側の曲面の形の設計を工夫することによって、LEDチップの側面から出る光が発散光であっても上方に出射する光を平行光に近い光にすることができます。内側のレンズ部と組み合わせれば、かなり理想に近い平行光が得られそうです。

 図41-4の例(3)ではレンズを使わず曲面反射鏡によってコリメートを行っています。断面図(b)に示されるように、LEDチップを下向きに固定し、出射光を凹部を作ったケースの内面の反射面で上方に折り返すように反射し、平行光にしています。上の斜視図(a)からわかるように発光素子を固定、配線するリードは、反射光をできるだけ妨げないように幅が狭く作られています。ケースの凹部内は透明樹脂で充填され、リードはその表面に形成されます。

 コリメート機能をもった発光ダイオードパッケージはこのようにいろいろな方式がありますが、目的によって平行光をそのまま使ってもよいし、さらにレンズなどの光学素子を組み合わせて使うこともでき、応用範囲が広いと言えると思います。

(1)特開2013-201226号
(2)国際公開2008/069143号
(3)特開2009-152227号