光デバイス/半導体レーザ

10.発光ダイオードと半導体レーザ

 pn接合やダブルヘテロ接合に電流を流すと、エネルギーの高い伝導帯に電子が流れ込み、エネルギーの低い価電子帯には正孔が流れ込むため、エネルギーの高い伝導帯に電子が多い状態が実現します。この状態で伝導帯と価電子帯のエネルギー差に等しい光が入射すると、これはまさに誘導放出が起きる条件を満たしています。となると発光ダイオードでも同じような状態なのになぜ自然放出だけが起きてレーザにはならないのだろうかという疑問が出てくるのではないでしょうか。

 この疑問に答えるにあたって、まず発光ダイオードでは自然放出だけが起きているのではなく誘導放出も起きていると考えなければいけません。そして大事なのは誘導放出の逆の現象の吸収も起きているということです。

 例えば接合に電流を流して伝導帯に電子を、価電子帯に正孔を詰め込んだとします。入ってくる光がなければ、やがて伝導帯の電子は価電子帯に落ち、自然放出によって光を出します。正確には光を出さずに熱になってしまうこともあるのですが、それは今は考えないことにします。

 すると伝導帯の電子は減ることになりますが、これは電流を流すことによって補給することができます。しかし電流が少なくて電子は十分補給されないと伝導帯の電子はますます減ってきます。伝導帯の電子が減れば、その分、伝導帯に電子が入る空きができますから、発生した光が再度吸収され電子が作られるという誘導放出と逆の現象が起きる余地がでてきます。つまり伝導帯に電子が充分あるかどうかによって吸収が優勢になったり、誘導放出が優勢になったりするのです。

 これ以外に自然放出で発生した光は誘導放出も吸収も引き起こさないで半導体の外に出て行ってしまうこともあります。このように自然放出で光が発生しても、条件が整わないと誘導放出が優勢になるとは限りません。というより誘導放出が持続して起きやすいように工夫してやらないとなかなか安定してレーザ光は得られないと言った方がよいでしょう。半導体の接合に電流を流すだけでは、発光ダイオードとして動作するのがむしろ普通で、半導体レーザにするには特別な工夫が必要です。

 半導体レーザを実現するためには、まず電流を十分流して伝導帯から失われる電子を補給する必要があります。また光増幅を十分起こすために光をあっさり外に出さずにできるだけ半導体内に留まるようにしてやる必要があります。これには他のレーザ同様、光共振器が用いられます。

 図10-1は半導体レーザに電流を流したときにどれくらい光が出てくるかを示した典型的なグラフです。I-L特性などと呼ばれます。電流が小さいうちは光は弱く電流を増やしてもあまり強くなりません。ところがある電流値を越えると、光は急に強くなり電流を増やすとさらに急激に強くなっていきます。この境目の電流値をしきい電流と呼びますが、電流がしきい電流以下のときは吸収が優勢で出てくる光は主に自然放出によるものです。

 電流がしきい電流を越えると誘導放出が優勢になりレーザ光が発生します。光の一部は外に取り出されているものの、電子が伝導帯に十分補給されるので、半導体中に残っている光によって誘導放出は十分に起きます。つまりしきい電流以上の電流を流すと、光増幅が起き、強いレーザ光が発生することになります。

 特性のよい半導体レーザを作るには上記の条件になりやすいように工夫しなければなりません。電流をたくさん流さなければいけないのですが、小さな半導体のチップの中に大きな電流を流せば、熱が発生して半導体が壊れてしまいます。これがもっともやっかいな問題で、これをうまく解決したのが現在の半導体レーザであるとも言えます。

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