光デバイス/半導体レーザ

11.半導体レーザの基本構造

 半導体に電流を流して発光させるための構造は発光ダイオードでも半導体レーザでも基本的には同じです。基本はpn接合に順方向に電流を流すことです。順方向とはp側がプラス、n側がマイナスになるように電源を繋ぐ方向のことですが、こうするとn側から電子、p側から正孔が流れ込み、接合部分で両者が出会い、電子が正孔に向かって落ち込むときに光が出ます。

 原理的には単純なpn接合でもいいのですが、実際の半導体レーザはほとんどの場合、9項で説明したようにダブルヘテロ構造を使います。レーザは光増幅を行うため大きな電流を流してキャリア(電子と正孔のこと)を十分供給しなければなりません。それだけでなく供給したキャリアを無駄なく光に変えるようにしないと、無駄になった電流によって発熱が起こり素子が長持ちできません。ダブルヘテロ構造は図9-2に示したように狭い範囲に電子と正孔を閉じ込めることができるので、効率的に発光を起こすことができます。

 そして半導体レーザがまったく発光ダイオードと違うところは光共振器をもっていることです。2枚の鏡は半導体チップの外に置いてもよいですが、半導体チップと一体化した方が組立の必要もないし小型にもなるので便利です。

 図11-1は半導体レーザチップの基本構造を示しています。真横から見た断面図です。半導体基板の上にダブルヘテロ構造が形成されています。電子と正孔が結合して光を出す中心の層を活性層と呼び、その上下の層をクラッド層と通常呼んでいます。基板がn型の場合(基板にp型を使ってもよいですが、実際はn型の場合の方が多いです)、下側のクラッド層はn型、上側のクラッド層はp型になります。活性層はp、nどちらでもいいですが、通常はあまり不純物を入れない真性半導体に近いものにします。半導体層の構成は必要に応じて必要な層が加えられ実際にはもっと複雑になりますが、それはおいおい説明していきます。

 基板裏面と半導体層最表面に電極が設けられ、電流を流すのに使われます。電流を流れやすくするため、障壁がないオーミック電極が求められます。上の例では基板側がマイナス電極(カソード)、半導体層側がプラス電極(アノード)となります。

 図のチップの左右両端が反射面になっていて光共振器になっています。この一対の反射鏡を光共振器とした半導体レーザをファブリ・ペロー型と呼ぶことがあります。光共振器は後述するように別のタイプもあるので、それらと区別するためです。

 この一対の反射鏡をもつ光共振器を半導体チップにどのように作ったらよいでしょうか。これには巧妙な方法があります。半導体チップは基板とその上の半導体層とも結晶です。結晶は原子が規則的にきれいに並んでいるため、ある方向にきれいに割れ、割れた面はでこぼこのない平らな面になります。この性質のことを劈開(へきかい)性といい、この面を劈開面といいます。半導体レーザの光共振器の反射鏡はこの劈開面が使われることが多いです。面が平らなだけでなく、両側の面は自然に平行になるので光共振器用には最適です。

 この劈開面はイメージとしてはガラスの板の表面と似ています。ガラスのショーウィンドーを覗くともちろんなかの展示物が見えますが、それに重なって自分の姿が見えることがあると思います。これはガラス板は透明なので光をよく通すため、ガラス板の反対側にあるものがよく見えるのですが、同時にガラス板の表面は平坦なので光の一部を反射します。半導体レーザの結晶の劈開面も同様でレーザ光の一部を透過し、残りを反射します。反射された光は半導体チップ内を行ったり来たりしながら増幅されます。

 もちろん反射鏡(半透鏡)は劈開面でなく何らかの方法で作っても構いません。また劈開面の反射率と透過率は結晶の材料によって決まってしまいますので、反射率や透過率を調整したいときにはさらに誘電体膜などを着けることもあります。

 ところで活性層で発生したレーザ光は活性層内だけを行ったり来たりするように説明していますが、何の仕掛けもなければ光は半導体チップ内に広がってしまいます。光が活性層外に出てしまっては光の増幅ができなくなってしまうので、キャリアだけでなく光も活性層内に閉じこめる必要があります。実はダブルヘテロ構造はその役割も兼ねているのです。光を閉じ込める、いわゆる光導波路構造も半導体レーザでは重要な役割を担っています。光導波路においては光が閉じ込められる層をコア層といい、それを挟む外側の層をクラッド層と言います。上で説明した半導体レーザの層構造でのクラッド層はここからきています。

 ファブリとペローはC.FabriとA.Perotという2人のフランスの物理学者の名前です。この2人によって一対の反射鏡からなる光共振器あるいは干渉計が19世紀末に研究され、これをファブリ・ペロー共振器とかファブリ・ペロー干渉計と呼んでいます。半導体レーザの場合は例えば回折格子などを反射器として使ったタイプなどと区別するためにこの名前が使われています。

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