光デバイス/半導体レーザ

9.半導体の接合での誘導放出

 前項までは前置きのようなものでしたが、ここから半導体レーザの話に入ります。少し前に、半導体レーザは外から光を当てていないのになぜ誘導放出が起こるのか、という疑問を書きました。この項ではこれについての回答を示しましょう。

 ルビーレーザでもフラッシュランプによる励起光が増幅されているのではないということを前項で説明しました。最初は自然放出による光が元になっています。半導体レーザも同じです。それでは半導体での自然放出による発光とは何でしょうか。これは発光ダイオードを思い出していただければよいです。発光ダイオードの光は半導体の自然放出によっています。

 それでは発光ダイオードでの発光はどのようにして起こっていたでしょうか。これは半導体中に電子と正孔を電流として流し込み、電子と正孔を結合させて発光させています。電子と正孔を分けて流し込むために半導体ではpn接合という手段があります。pn接合を使って電子と正孔を流し込むという芸当は半導体だからこそできます。半導体レーザもまずは自然放出を起こさせる必要がありますから、発光ダイオードと同じ方法を使います。

 自然放出による発光をさせるところまでは発光ダイオードと同じですが、半導体レーザでは誘導放出を起こさせて光を増幅しなければなりません。誘導放出が起こるためには繰り返し説明しているようにエネルギーの高い電子の方が多い状態を作らなければいけません。半導体の場合、伝導帯(エネルギーEc)に多数の電子がいる状態はまさにこの状態ですから、電流の流し込みだけで誘導放出が起こる条件を作り出すことができてしまいます。ですから光を当てる必要はないわけです。もちろん光を当てて励起する手段も使えますが、その場合は別に光源とその電源を用意し、光を小さな半導体チップに当てなければならないので、電流を流すだけの方がずっと簡単です。

 ところで発光ダイオードのところでpn接合だけでなくダブルヘテロ接合というものが使われていることを説明しました。発光ダイオードでは普通のpn接合でもよかったわけですが、より強い光を得るためにダブルヘテロ接合が使われています(発光ダイオード、8項)。

 半導体レーザでは効率的に誘導放出を起こさせなければならないため、通常のpn接合では無理で、もっぱらダブルヘテロ接合が使われます。というかダブルヘテロ接合は半導体レーザのために最初は考えられたもので、発光ダイオードにも後で使われるようになったというのが正しいでしょう。

 図9-1はこのダブルヘテロ接合のエネルギー図で、縦方向が電子のもつエネルギー、横方向は位置を表しています。3つの半導体が積層され、真ん中と両側は異なる種類の半導体になっています。両側の半導体2は真ん中の半導体1よりバンドギャップエネルギーの大きいものが用いられます。また左側の半導体2はn型、右側はp型です。真ん中の半導体1には不純物を積極的にドープしない場合が多いです。なお、この図は発光ダイオードの説明のときに描いたものより、さらに単純にしましたが、これは説明を簡単にするためで、実際の接合部分のエネルギーの変化はもっと複雑なはずです。しかし説明のためにはこの図でとくに支障はありません。

 図9-1は電圧がかかっていない熱平衡状態を示しています。伝導電子はn型半導体2のなかにたくさんいますが、半導体1との境界に壁(障壁)があるため、半導体1には入り込みにくい状態になっています。正孔の方は境に障壁がないので、半導体1のなかにも入り込んでいます。これはいつも必ずこうであるわけではなく、半導体の組み合わせによっては正孔に対して障壁がある場合もあります。いろいろな場合を説明していると話が混乱しますので、ここではこのようになっているとお考え下さい。いずれにしても熱平衡状態では電子と正孔は分離された状態にあって結合はしにくい状態になっています。

 つぎに順方向(p型側に+、n型側に-)に電圧をかけた場合を考えます(図9-2)。すると、n型半導体2と半導体1の間の障壁が小さくなり(図ではなくなっています)、n型半導体2側から半導体1に伝導電子が流れ込みます。図9-2のように半導体1とp型半導体2の間の伝導帯の障壁はなくなっていませんから、電子は堰き止められて半導体1内に貯まりやすくなります。

 つまり半導体1内に電子と正孔がたくさんいる状態ができます。これはEcのエネルギーをもった電子がEvのエネルギーをもった電子より圧倒的に多い状態ですから、誘導放出が起きる状態ができています。これが半導体レーザができる原理です。

 しかし以上の説明ではダブルヘテロ接合ではいつも誘導放出が起きてしまい、自然放出だけの発光ダイオードはありえないように思われるかもしれません。ここにはまだ他の条件があります。

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