光デバイス/発光ダイオード

8.ダブルヘテロ接合

 ダブルヘテロ接合とはヘテロ接合が二重になっていることを意味します。GaAsとAlGaAsのヘテロ接合を例にとれば、AlGaAs/GaAs/AlGaAsとかGaAs/AlGaAs/GaAsというふうに積層するとヘテロ接合が二重になるのでこれがダブルヘテロ接合になります。

 ダブルヘテロ接合に対してシングルヘテロ接合という接合構造があります。これは前項(7)に記したような単一のヘテロ接合ではなく、例えばp型GaAs/n型GaAs/n型AlGaAsのようにホモ接合とヘテロ接合とを組み合わせた構造のことを意味します。シングルヘテロ構造はダブルヘテロ構造に比べるとデバイスに応用されることは少なく重要度は高くありません。

 ダブルヘテロ接合に話を戻します。図8-1は上記のAlGaAs/GaAs/AlGaAs構造のように両側の層のエネルギーバンドギャップが真ん中の層より大きい場合のエネルギーバンド図です。図のエネルギー関係は前節同様かなり誇張して描いています。

 図は左側がn型のAlGaAs、右側がp型のAlGaAsで、その間にGaAsをはさんだダブルヘテロ構造です。GaAsの伝導型はpでもnでもよく、真性半導体でもよいです。図はこれに順方向(n側にマイナス、p側にプラス)の電圧をかけた状態を示しています。破線で示したn側のフェルミエネルギーがp側のそれより高くなっているのがそれを示しています。

 前節でも示したようにヘテロ接合では接合界面付近の伝導帯や価電子帯にスパイクとかノッチとか呼ばれる尖った出っ張りや凹みができます。電子はn型のAlGaAs側から尖ったスパイク部分を越えてGaAs層に流れ込みますが、p型AlGaAs層側には高い障壁があり、これを越えることができずに堰き止められてしまいます。一方、正孔はp型AlGaAs側からGaAs層に流れ込みますが、同じようにn型AlGaAs層には流れ込めません。

 このためGaAs層に電子と正孔が貯まることになり、電子は近くにいる正孔に引き寄せられて再結合しやすくなります。供給される電子と正孔のほとんどがこのGaAs層内で結合し、光を出すことになります。無駄になる電子、正孔が少ないため、同じ電流でも単一のホモ接合やヘテロ構造の場合より強い発光が起こることになります。これがダブルヘテロ構造を使う利点です。

 ところでGaAsとAlAsの格子定数(並んでいる原子の間の距離)は、GaAsが0.56533nm、AlAsが0.56605nmで0.1%程度しか違いません。AlGaAsの格子定数はこの間の値であり、AlとGaの組成比がいくつであっても、格子定数はGaAsとほとんど変わりません。このためGaAsと任意の組成のAlGaAsとを積層しても格子定数の不整合によって結晶の品質が悪くなることはありません。しかしこれは特別に幸運な場合で、他の材料の組み合わせでヘテロ接合を作る場合、組成によって格子定数が不整合になることに注意が必要です。

 例えば、GaNとInNの格子定数は結晶の方向によって違いますが、GaNは0.3188nm、InNは0.354nmで、10%くらいInNの方が大きい値をもっています。このため、GaN結晶膜の上にInGaN結晶膜を積層する場合、Inの組成比が小さいうちはいいのですが、組成比が大きくなりInNに近づいてくるとInGaNの結晶に乱れが生じ、できる結晶の質が悪くなりやすくなります。厚い結晶層を成長する場合には一般に格子定数差が1%より小さくないと良質の結晶は得られません。

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