科学・基礎/半導体物理学
25.フーリエ展開

 実際の結晶中での電子の理論をさらに進めるためには、周期ポテンシャルの形を一般化して扱えるようにする必要があります。それを行う有力な手段がフーリエ展開です。

 関数が周期関数ならばフーリエ級数という無限級数でその関数が表せます。その理屈にはここでは触れませんが、高校でも無限級数は出てきますし、極限値も習いますので、それほど難しい話ではないと思います。

 どういう級数かというと次のような式で示される級数です。    \[f\left (\theta \right )= \frac{a_{0}}{2} + \sum_{n= 1}^{\infty }\left ( a_{n}\cos n\theta + b_{n}\sin n\theta \right )\tag{1}\] 定数 \(a_{n}\)、\(b_{n}\) は表そうとするもとの関数 \(f \left( \theta \right )\) を使って次式で表されます。 ただし、\(n=1,2,\cdots\) です。   \[\begin{align} a_{n} &= \frac{1}{\pi }\int_{-\pi }^{\pi }f\left ( \theta \right )\cos n\theta \mathrm{d} \theta\tag{2} \\ b_{n} &= \frac{1}{\pi }\int_{-\pi }^{\pi }f\left ( \theta \right )\sin n\theta \mathrm{d}\theta\tag{3}\end{align}\]

 \(2\pi\) が周期の関数では一般的ではないので、周期が \(d\) の関数 \(f \left( x \right)\) に直します。これには \(\left (2\pi /d \right ) \theta \rightarrow x\) と置き換えればよく、

   \[f\left ( x \right ) = \frac{a_{0}}{2} + \sum_{n=1 }^{\infty }\left [ a_{n} \cos\left ( \frac{2n\pi x}{d} \right ) + b_{n} \sin\left ( \frac{2n\pi x}{d} \right )\right ] \tag{4} \]

\[\begin{align} a_{n} &= \frac{1}{d}\int_{-d/2}^{d/2}f\left ( x \right )\cos \left ( \frac{2n\pi x}{d} \right )\mathrm{d}x \tag{5} \\ b_{n} &= \frac{1}{d}\int_{-d/2}^{d/2}f\left ( x \right )\sin \left ( \frac{2n\pi x}{d} \right )\mathrm{d}x\tag{6}\end{align}\] となります。

 以上は実関数のsinとcosを使った級数ですが、オイラーの公式を使って複素数形式にすることもできます。    \[ \begin{gather} f\left ( x \right ) = \sum_{n=-\infty }^{\infty }c_{n}\mathrm{e}^{ik_{n}x}\tag{7} \\ c_{n} = \frac{1}{d}\int_{-d/2}^{d/2}f\left ( x \right )\mathrm{e}^{-ik_{n}x} \mathrm{d}x\tag{8}\end{gather}\]

ただし

\[ k_n=\frac{2\pi n}{d}\]

と置きました。

 いろいろな教科書にも載っているもっとも簡単な例を挙げておきます。図25-1のような周期 \(2\pi\) の方形波をフーリエ級数で表す(フーリエ展開する)と    \[\begin{align} f\left (\theta \right ) &= \frac{4}{\pi }\left ( \sin\theta + \frac{1}{3}\sin 3\theta + \frac{1}{5}\sin 5\theta + \frac{1}{7}\sin 7\theta + \cdots \right ) \\ &= \frac{4}{\pi }\sum_{n= 0}^{\infty }\frac{\sin\left ( 2n+1 \right )\theta }{2n+1}\end{align}\] となります。 この級数の1項だけ(\(n=0\)、青)、2項まで(\(n=1\)、赤)、3項まで(\(n=2\)、緑)、4項まで(\(n=3\)、黒)をそれぞれ描いてみたのが、図25-2です。項数を増やしていくと次第に図25-1の形に近づいていくのがわかると思います。

 クローニッヒ・ペニーポテンシャルも同じように展開できますが、矩形波が非対称の場合は \(\cos\) の項も残り、少し複雑になります。

 このようなフーリエ展開は上式の \(\theta\) を時間としたパルス信号の周波数成分の解析によく使われますが、量子力学では \(\theta\) を位置(距離)として周期的なポテンシャルや波動関数を展開することがよく行われます。

 周期 \(a\) をもった1次元のポテンシャル \(V\left ( x \right )\) を複素数形式でフーリエ展開すると、(7)式と同様で    \[V\left ( x \right )= \sum_{n=-\infty }^{\infty }V_{n}\mathrm{e}^ {ik_{n}x}\tag{9}\] となります。ただし、\(k_n =2\pi n/a\) で、\(n=0,\pm 1,\pm 2,\cdots\) です。\(V_n\) は(8)式同様ですので省略します。

 また巡回境界条件での波動関数は    \[\psi \left ( x \right )= u\left ( x \right )\mathrm{e}^{-ik_{n}x}\] と表せ、\(u \left( x \right)\) もポテンシャルと同じ周期をもつので、同じよう展開できます。    \[u \left ( x \right )= \sum_{n= -\infty }^{\infty }A_{n}\mathrm{e}^ {ik_{n}x}\]  これをシュレディンガー方程式に入れて解けば、任意の周期ポテンシャルのもとでの電子の状態がわかるはずです。

 さらに21項などで説明しているようにポテンシャルも波動関数も3次元で扱う必要があります。フーリエ級数展開も3次元の関数に拡張することが可能です。例えば3次元の関数をxyz座標系で表した \(f\left ( x,y,z \right )\) とし、その周期はxyz方向にそれぞれ \(a_x\)、\(a_y\)、\(a_z\) とします。この\(f\left ( x,y,z \right)\)を1次元の場合にならってフーリエ級数展開すると

\[f\left (x,y,z\right ) =\sum_{n_x=-\infty}^{\infty}\sum_{n_y=-\infty}^{\infty}\sum_{n_z=-\infty}^{\infty}C_{n_{x},n_{y},n_{z}}\mathrm{e}^ {ik_{nx}x}\mathrm{e}^{ik_{ny}y}\mathrm{e}^{ik_{nz}z}\tag{10}\]

となります。ただし、

\(k_{nx}=2\pi n_x/a_x\)、\(k_{ny}=2\pi n_y/a_y\)、\(k_{nz}=2\pi n_z/a_z\) 、また、\(n_x=0,\pm 1,\pm 2,\cdots,n_y=0,\pm 1,\pm 2,\cdots,n_z=0,\pm 1,\pm 2,\cdots\)です。

さらに \(C_{n_{x},n_{y},n_{z}}\) は

\[C_{n_{x},n_{y},n_{z}} =\frac{1}{a_x a_y a_z}\int_{-a_x/2}^{a_x/2}\int_{-a_y/2}^{a_y/2}\int_{-a_z/2}^{a_z/2}f\left ( x,y,z \right ) \mathrm{e}^{-i \left (k_{nx}+k_{ny}+k_{nz}\right )}\mathrm{d}x\mathrm{d}y\mathrm{d}z\tag{11}\]

と表されます。このように3次元の場合は式が煩雑になりますが、ベクトルを使って表すと(10)式はつぎのように大分簡単になります。

\[f\left (\mathbf{r} \right ) =\sum_\mathbf{n} C_{\mathbf{n}}\mathrm{e}^{i\mathbf{k} \cdot\mathbf{r}}\tag{12}\]

ここで、\[\mathbf{r}=a_x\mathbf{e}_x +a_y\mathbf{e}_y +a_z\mathbf{e}_z\tag{13}\]と表されます。ただし、\(\mathbf{e}_x\)、\(\mathbf{e}_y\)、\(\mathbf{e}_z\) はそれぞれxyz方向の単位ベクトルです。(13)式を

\[\mathbf{r}=\left (a_{x},a_{y},a_{z}\right )\]と書くことにすると、\[\begin{align}\mathbf{n} &= \left ( n_{x},n_{y},n_{z}\right ) \\ \mathbf{k} &= \left ( k_{nx},k_{ny},k_{nz}\right )=\left ( 2\pi n_x/a_x,2\pi n_y/a_y,2\pi n_z/a_z \right )\end{align}\]

となります。さらに(11)式は

\[C_{\mathbf{n}}=\frac{1}{a_{x}a_{y}a_{z}}\int\mathrm{e}^{-i\mathbf{k}\cdot\mathbf{r}}f\left (\mathbf{r}\right)\mathrm{d}^3\mathbf{r}\tag{14}\]

と書けます。