科学・基礎/量子化学

8.イオン化エネルギー、電子親和力、電気陰性度

 HOMOからLUMOへ励起された電子がエネルギーを失うときに発光が生じるという基本的な原理は、前項の説明でおおよそおわかりいただいたと思いますが、有機発光ダイオードでは電極から電流を注入することによって電子と正孔を供給します。そのメカニズムをもう少し調べる必要があります。

 まずHOMOにある電子にエネルギーを与えて原子の束縛から解放することを考えます。例えば分子に光によりエネルギー \(\Delta E_i \) を与えたとき、電子が分子を構成するいずれかの原子から離れ、その原子がイオンになるとします。このような状態になった分子を分子イオンと言います。このエネルギー \(\Delta E_i \) は図8-1のように真空準位(エネルギーを 0 とする)とHOMOのエネルギーの差に相当します。

 このエネルギー \(\Delta E_i \) をイオン化エネルギーといいます。このイオン化エネルギーは半導体結晶の場合の仕事関数に相当することがわかると思いますが、仕事関数は真空準位とフェルミ準位の差で定義されます。しかし分子ではフェルミ準位は定義できません。

 一方、自由な電子が分子に加わる場合を考えると、HOMOが電子で埋まっている場合、電子はLUMOに入り、分子は電子が過剰な状態の分子イオンとなります。このとき電子は真空準位とLUMOのエネルギー差 \(\Delta E_e \) に相当するエネルギーを失います(図8-1参照)。このエネルギーを電子親和力と言います。半導体結晶の場合も同じ用語が用いられますが、この場合は電子が伝導帯に入ることを意味し、電子親和力は真空準位と伝導帯の底のエネルギーの差で定義されます。

 以上のようにイオン化エネルギーは分子から電子が離れ、分子を構成する原子が陽イオンになるなりやすさを示す指標で、イオン化エネルギーが小さい分子ほど陽イオンになりやすいことになります。また電子親和力は電子が分子に加わり、分子が陰イオンになるなりやすさを示す指標と言うことができます。電子親和力が小さい分子ほど陰イオンになりやすいと考えられます。

 通常、陽イオンになりやすい分子は陰イオンになりにくく、逆に陽イオンになりにくい分子は陰イオンになりやすい傾向があると考えられます。そこでイオン化エネルギー \(\Delta E_i \) と電子親和力 \(\Delta E_e \) の絶対値の平均をとってこれを電気陰性度 \(\chi\) と定義しています(別の定義もありますが、これがもっともわかりやすいと思われます)。 \[\chi=\frac{\left | \Delta E_{i} \right | +\left | \Delta E_{e} \right |}{2}\]

 電気陰性度が大きい分子ほど電子を受け入れやすく、陰イオンになりやすいことを示します。この電気陰性度は単独の原子に対しても定義できます。例えば陽イオンになりやすいNaでは \(\chi =0.3 \mathrm{eV}\) と小さく、陰イオンになりやすいClでは \(\chi =3.0 \mathrm{eV}\) と大きい値が測定されています。

 

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