科学・基礎/量子化学

1.はじめに

 化合物半導体の結晶に電流を流すと発光が起こります。これを利用したデバイスの代表が発光ダイオードです。一方、有機分子にも電流を流すと発光するものがあることが知られていて、これを利用して有機発光ダイオードという発光デバイスが作られています(「有機発光ダイオード・エレクトロルミネッセンス素子」参照)。

 この有機分子は薄いフィルム状にして使用されますが、化合物半導体のように結晶にすることは通常ありません。化合物半導体の場合は良質な結晶を用いることが性能のよい発光特性を得る条件と考えられているので、有機分子の発光はこれとはまったく異なる機構によっていることが想像されます。

 とは言え固体に電流を流すことによる発光は、電子と正孔が結合し、エネルギーを光として放出するという点では共通なはずですから、これら電子(と正孔)の状態を解明する必要があることも共通です。

 このような電子の状態を解析するのに用いられるのが量子力学ですが、多数の原子と電子を含む系については方程式を解くことができないので、いろいろな近似を用いて理論が組み立てられてきました。

 無機結晶半導体では原子が規則的に並んでいることが特徴です。バンド理論はこの特徴を条件に導かれ、これを使っていろいろな現象が説明されています(「半導体物理学」の18~33項参照)。発光現象もその一つです。しかし有機分子については上記のように結晶という条件はありませんから、別の考え方が必要です。

 これが分子軌道法という近似法で、以下にその考え方を説明します。とくに発光については福井謙一先生がノーベル賞を受賞されたフロンティア分子軌道という考え方が有用で、これについても紹介します。