光デバイス/太陽電池

45.有機半導体薄膜太陽電池

 前項で説明したように有機化合物のなかには電子を放出しやすい性質をもった電子供与体(ドナー)分子と電子を受け取りやすい性質をもった電子受容体(アクセプタ)分子があります。そしてこれらを混合してできる電荷移動錯体は半導体としての性質をもっています。しかしこの電荷移動錯体単体では太陽電池は作りやすくありません。

 そこで考えられたのが、ドナー分子とアクセプタ分子でそれぞれ層を作り、それを積層して太陽電池とするものです。これはちょうど無機半導体のpn接合と同じような考え方です。このタイプの太陽電池の研究を早い時期に強力に推し進めたのはアメリカのイーストマン・コダック社のC. W. Tangです。

 図45-1は1977年に出願された特許(1)に掲載された単純な構造の太陽電池です。透明導電層を着けたガラス基板の上にドナー分子層、その上にアクセプタ分子層を着け、その上に金属電極を設けています。

 この構造を使い、たくさんの種類の有機材料の組み合わせでどのような変換効率が得られるかを調べています。ドナーの方は前項でも紹介したフタロシアニン(とくに銅フタロシアニン)を使っています。フタロシアニンは熱に強く安定な色素ですから真空蒸着で膜を作ることができます。厚さ40nmという薄い層を形成しています。

 アクセプタは非常に多くの材料を試していますが、ベンゼン環を複数もち分子が平面状の染料(色素)を選んでいます。こちらは溶液をスピンコートする方法でやはり40nm程度の厚さの薄膜を形成しています。得られた変換効率はこの段階では1%に達していません。比較的高成績だったものでも変換効率は0.65%といったところです。1986年には1%に達する結果が報告されています。

 このようなドナー/アクセプタの積層構造で変換効率があまり高くならない理由の一つは有機半導体層の抵抗が高いことがあげられます。有機半導体では無機半導体のように不純物を多くドープして抵抗を下げるという手段が使えません。このため有機半導体層を厚くすると電流が流れにくくなってしまうので薄くせざるをえませんが、薄くすると今度は入射光を十分吸収できないことになり、これも効率の向上を妨げます。

 そこで考えられたのがバルクヘテロ接合という構造です。これは互いに溶け合わないドナー分子とアクセプタ分子を混合して、積層による接合ではなく膜面の横方向に接合ができるようにしたものです(図45-2(2)。こうすると膜を厚くして光を十分吸収させることができ、接合は横方向の近いところにあるので電流に変換されやすくなります。この考え方はアメリカ、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のA. J. Heeger教授のグループによって提案されています(3)

 これらの研究を通して、有機半導体太陽電池の原理は無機半導体のpn接合とはだいぶ違うことがわかってきています。図45-3は透明電極、ドナー分子層、アクセプタ分子層、電極という順で積層された構造のエネルギー図です。

 太陽光は透明電極を透過してドナー側に入射します。電子と正孔の対ができますが、両者のプラス・マイナスの電荷が引き合って完全には分離しない、しかし再結合もしない状態になります。これを励起子(エキシトン)と呼びますが、励起子は電荷を持たないので、拡散で動きます。これがドナー分子層とアクセプタ分子層の界面に到達するとそこでようやく電子と正孔に分離します。

 電子はアクセプタ分子層内を流れて電極に到達し、正孔はドナー分子層中を逆戻りして透明電極に到達します。これで光起電力が発生します。無機半導体のpn接合では電子と正孔が空乏層内を電界に引かれて移動しますが、有機半導体には空乏層というものがないと考えられています。とは言え結果的には電子と正孔の動きで起電力が発生します。

 有機半導体薄膜の太陽電池の変換効率は大分改善されたものの、まだ5~6%程度です。有機半導体は一般に無機半導体よりも軽く柔らかいので、フレキシブルな太陽電池として期待はされていますが、実用の段階に達するにはまだ時間がかかりそうです。

(1)米国特許US4164431号(対応日本出願:特開昭54-27787号)

(2)再表03-75364号

(3)米国特許US5331183号  

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