光デバイス/太陽電池

21.単結晶シリコン太陽電池

 単結晶シリコンを使った太陽電池は現在でも性能の良い代表的な太陽電池として使われています。太陽電池のもっとも重要な性能は、入射した光のエネルギーのうち、何%を電気のエネルギーに変えられるか、すなわちエネルギー変換効率です。

 もちろん高い変換効率を得るには、材料の「質」ができるだけよい必要があり、前項まで調べた単結晶の作り方がその鍵を握っていると言えます。しかしこれに合わせて太陽電池の素子構造によっても変換効率は改善できます。

 すでに最初に作られた単結晶シリコン太陽電池については17項で紹介しました。これは1954年にベル研究所で開発されたものです。このときの変換効率は5%程度とされています。その後、変換効率を改善すべく素子構造を改良する努力が長く続けられてきました。ここではその歴史については立ち入らず、現在、ほぼ完成したと思われる単結晶シリコン太陽電池の代表的な構造を紹介することにします。その典型的な構造は図21-1に示すようなものです(1)

 単結晶シリコン太陽電池の構造の大きな特徴としてはつぎの3つが挙げられます。特徴ごとに説明します。

(1)表面構造

 素子構造の特徴で目立つのは表面の凹凸構造(テクスチャーとも言います)です。図21-1では基板の表面に図21-2に概略を示したような、入り口が正方形で、底に向かって狭まった穴がたくさん作られています。これを逆ピラミッド構造と呼んでいます。大きさは正方形の一辺、穴の深さがそれぞれ数10μm程度と非常に小さいものです。逆に表面側が尖った普通のピラミッド構造でもよく、そのいずれでも効果にそれほどの違いはありません。

 この凹凸は前にも説明しましたが、表面から入射する太陽光の反射を減らすことと、中に入った光が反対側で反射して外に出て行ってしまうのを防ぐことの両方の役割をもっています。光をできるだけ基板の結晶内に留めて電気に変換される割合を増やそうという考えです。入射光の反射を減らすためにはさらに反射防止膜も設けられています。

 こんな構造をどうやって作るのかというと、これは結晶の性質を生かしたエッチングを使います(1)。この基板は単結晶ですから、ウェハを作るときの切り出し方で表面のシリコン原子の並び方の規則を決めることができます。そこに四角い穴の開いたマスクを着け、特別のエッチング液でエッチングをすると、ある方向にだけエッチングが進みやすいという結晶独特の性質(異方性)があってこのような逆ピラミッド型の穴ができます。シリコンの場合、(100)面を表面とするウェハに正方形の開口を開けたマスクを<111>方向に正方形の辺の方向を合わせてマスクを着けます。これを加熱したKOH(水酸化カリウム)の水溶液でエッチングすると、図21-2のような(111)面を側面とする穴ができます。小さな正方形を碁盤の目状に並べたマスクにすれば、ピラミッド状の凹凸ができます。

(2)接合構造

 肝心の接合はこの凹凸のある表面付近にあります。基板はp型のシリコンですので、表面からリンなどのn型の不純物を一様に熱拡散する方法でn型拡散層を作り、pn接合とします。n型拡散層の表面も凹凸となります。入射する光は波長が短い成分ほど表面近くで吸収されるので、基板の奥深いところに接合があると、キャリアがそこに至ることができずに消滅してしまうことになり、変換効率にとってはよくありません。

 なお単結晶シリコン太陽電池の場合はp型基板を使うことが多いですが、これには理由があります。半導体ではだいたい、少数キャリアが動ける距離(拡散長)は電子の方が正孔より長いという性質があります。単結晶シリコン太陽電池では100μmくらいの厚さの基板を使いますので、表面で発生したキャリアが基板の中を速く流れてくれる必要があります。n型基板を使うと少数キャリアは正孔になるので、不利になるのです。

 さらに基板と裏面電極との間に15項で触れたような裏面電界(BSF)層を設けることが行われます。裏面付近で電子と正孔を分離させ再結合を減少させるはたらきがあり、変換効率を向上させる効果があります。

 BSF層の作り方もいろいろ検討されていますが、p型シリコン基板の場合、裏面にアルミニウム層を着け、これを700℃程度で熱処理すると、Ⅲ族のアルミニウムがシリコン内に拡散し、p層が容易にできます。他の物質を膜着けし、ヘテロ接合を形成する例もあります。

(3)電極

 表面側の電極には11、12項で説明したように細長いフィンガー電極、バスバー電極からなる集電極を使います。これはもちろん入射する太陽光をできるだけ遮らないようにするためです。ただし電極の間隔が広すぎると、折角キャリアができても電極に到達し難くなってしまうので、光を遮る割合との兼ね合いで電極の形を設計する必要があります。

 裏側の電極は光が抜けない方がよいので、一面に金属を着けます。BSF層のためにアルミニウム層を着け、その一部を金属のまま残せば、アルミニウムは反射率が高いので裏面反射層としても利用でき、さらにオーミック接触した電極にもなります。必要に応じてさらに金属層を重ねて裏面電極とすることもできます。

 念のために図21-1の構造のシリコン単結晶太陽電池の作り方の手順を図21-3に示し、簡単に説明します。

(a)p型シリコンウェハ(基板)を表面の洗浄などを行って準備します。

(b)基板表面全面を熱酸化してSiO膜を着けます。

(c)フォトリソグラフィによりSiOの一部を除去し、基板表面側に表面凹凸形成のためのマスクを作ります。

(d)基板をエッチングして表面凹凸を形成します。

(e)凹凸が形成された基板表面にリン(P)などのn型不純物を拡散し、pn接合を形成します。

(f)n型層表面に反射防止膜兼保護膜を形成します。これはSiO、TiO、SiNなどの誘電体膜で、単層よりも屈折率の異なる材料を多層にした方が反射防止性能が向上します。

(g)表面電極を形成します。反射防止膜は誘電体のため、n層と導通させるためには導通箇所の反射防止膜を除去してn層表面を露出させる必要があります。このためにはフォトリソグラフィが必要になりますが、もっと簡単にする方法があります。これは古くから知られているファイアスルーという方法です(2)。反射防止膜の上に電極となる金属(銀など)とガラスの微粒子を含むペーストを電極の形に印刷、塗布します。表面電極は複雑な形である場合が多いので、スクリーン印刷法がよく用いられます。

(h)その後、700℃程度の高温で焼成すると金属粒子は誘電体膜を透過して半導体表面に到達し導通することができます。

(i)BSF層を形成します。簡便な方法としては基板裏面にアルミニウムを含むペーストを塗布し焼成する方法が代表的です。アルミニウムはⅢ族元素ですからp型不純物となり、裏面から拡散させるとp層が形成されます(3)。さらに裏面電極を形成します。

 BSF層と裏面電極は同時に形成できる場合もあります。またBSF層を形成する際、熱処理を行う場合にはファイアスルー工程での熱処理と兼ねることができる場合もあります(3)

 以上の(1)(2)(3)の構造を備えたシリコン単結晶太陽電池では10数%程度から20%を越える変換効率が得られています。単結晶シリコンの理論的な変換効率は27%くらいですから、これに迫るものが作られていることになります。単結晶シリコンの技術が非常に進んでいることがわかります。

(1)例えば特開2000-2218号

(2)特開平11-213754号

(3)例えば特開平10-233518号