光デバイス/太陽電池
15.太陽電池の効率を低下させる原因(その4)これまで、光が太陽電池のセルの中にうまく入ってくれないとか、入ってくれはするものの電気に変換されずに通り抜けてしまうとかいった問題を考えました。
この項では光がセルのなかで吸収され電子と正孔を発生させるのに、外に電力としては出てこないという問題を考えます。これはどういうことかというと電子が太陽電池の外に流れ出る前にまた正孔と結合して消滅してしまうことが起こりうるということです。一度できた電子と正孔がもう一度結合するので、これを再結合と呼んでいます。
再結合が起こると、エネルギーが外に放出されます。これは発光ダイオードの原理と同じように光のエネルギーになる場合もありますが、必ずしも光になるわけでなく、熱になる場合もあります。
pn接合を使った太陽電池では接合付近には空乏層ができていますが、この部分にはかなり強い電場がありますから、この付近で発生した電子と正孔はこの電場に引かれて高速で移動します。これをドリフトと呼んでいます。ここでは電子と正孔が結合する機会は少ないのであまり問題はありません。
ところがこの空乏層の厚さはせいぜい数μm程度です。結晶基板を使った太陽電池では図15-1のようにかなり厚い例えばp型結晶の上に比較的薄いn型層を着けた構造が使われます。この場合、空乏層の外でも太陽光が吸収され電子と正孔が発生します。そのような部分には基本的に電場がありません。しかし電子と正孔はじっとしているわけではなく、たくさんいる(濃度が高い)ところからあまりいない(濃度が小さい)ところに向かって移動します。これを拡散といいます。コップの水に赤インクを一滴たらすとかき混ぜなくても時間が経てば赤インクはコップの中に一様に広がります。このような拡散現象は電子や正孔でも起こります。
この拡散で電子または正孔が空乏層にたどり着ければ、外部に取り出せる電流となります。しかしたどり着く前に再結合してしまう場合もあります。どの程度の距離を再結合せずに拡散できるかの目安となる量をキャリア拡散長と言います(図15-2参照)。
半導体結晶の質が悪いと再結合が起こりやすくなりますから、拡散長は短くなります。質が悪いというのは結晶の原子の並びが乱れた部分(欠陥と言います)が多かったり、何か不純物が多く含まれている状態です。このような欠陥や不純物は電子や正孔を引き寄せやすく、ここで電子と正孔が再結合しやすくなります。
このためできるだけ質の良い結晶を使うに越したことはないのですが、太陽電池は他の半導体デバイスと違って多くの太陽光を受け止めるためにできるだけ面積を大きくする必要があります。しかし大きくて質の良い結晶を作るのは難しく、また値段が高くなってしまいます。この点にどう折り合いを付けるかが難しい問題で、これはまた後で考えることにします。
これまでは結晶の内部の話でしたが、結晶の表面でも電子と正孔は再結合しやすいことが知られています。結晶の表面というのはそこで原子の並びが途絶えているので、欠陥のようなものです。結晶の表面はどんな場合にも必ずあるので、そこでの再結合をまったくなくすことは不可能です。とくに太陽電池はその表面から太陽光を入射しますから、影響を受けやすいと言えます。
半導体結晶の表面を空気中に曝したままにすることは太陽電池に限らず普通はしません。結晶の表面上にはSiO2などの絶縁膜を着けるのが普通です。これをパッシベーション、日本語では不活性化などと言います。これによって半導体結晶表面の欠陥を減らせることが知られています。表面の欠陥が減れば再結合を少なくすることができます。
さらに基板裏面に裏面電界層(BSF(Back Surface Field)層)という層を設ける手段がよく用いられています。図15-3のようにpn接合のある表面(受光面)と反対側の半導体基板と裏面電極の間に設けます。基板がp型ならp型不純物を高濃度に含むp+層を設けることが多いですが、ヘテロ接合を利用することもあります。
1980年代の文献(1)にすでにその原理が載っているので、考え方は古くからあるようです。BFS層を設けた太陽電池のエネルギーバンド図を図15-4に示します。p+層はフェルミレベルがp層より価電子帯に近づくため、図のように基板裏面付近では正孔が電極に流れ出やすくなります。一方電子に対しては裏面付近にわずかながら障壁ができますから裏面付近で電子と正孔の分離が行われ、再結合が減ると考えられます。
基板より少しバンドギャップエネルギの大きい材料を使ったヘテロ接合として電子に対する障壁を高くするなどいろいろな工夫もすることができます。
太陽電池の効率を低下させる原因はこの他にもあり得ますが、大きな原因は以上です。
(1)例えば特開昭58-155773号