産業/特許
17.まとめ

 青色発光ダイオードの開発にともなって出願された特許、取得された特許権などを実例に特許制度の概要をみてきました。このような試みは2000年代中頃に一度行ったのですが、そこからすでに約15年が経過しています。

 このページをまとめる課程で気付いたことはこのモデルはすでに大分古くなっていることです。特許制度は近年かなり改定が行われてきました。ここで例として取り上げた1990年代前半に出願された特許群は公報の形式からして現代のそれとはかなり異なり、審査のプロセスも大きく変化しています。

 このため、モデルとする特許を新しいものに変更した方がよいかと考えましたが、よい例が見つかりませんでした。青色発光ダイオードは2014年のノーベル賞受賞をみるまでもなく、社会に大きな影響を与えた半導体デバイス分野の技術進歩であり、これに匹敵するテーマはそうはありません。

 そこで公報の形式など古い点は別途補うことにし、同じ特許群をモデルとして利用しました。

 重要な制度は大方説明したと思いますが、実施権については触れませんでした。これは特許権を取得した特許権者が自身で権利を独占するのではなく、他者に使用する権利を与えるもので、もちろん対価を要求できます。クロスライセンスの例に少し触れましたが、技術、発明とはやや遠いので割愛しました。その他、200条を越える特許法の規定のなかにはほとんど使用されていない制度もあり、これらには触れていません。

 以下、最近の公報についての説明です。法律の改正の必要の無い細かい変更はかなり頻繁に行われますので、以下も短時間のうちに変更される可能性があります。

最近の公報の形式

 最近の特許公報の例としてここでは、特許6654731号を参照してみます。窒化物半導体分野で2020年になってから発行された公報から選んだものですが、書誌事項をみると公開公報の記載がありません。これは公開公報より特許公報が先に発行された例だからです。この特徴があるため、敢えてここで取り上げましたが、この特徴自体は新しいものではありません。

 この特許は国内優先権を主張した出願で、優先日は2018年9月28日です。後の出願日は2019年9月25日でこの出願と同時に審査請求が行われています。拒絶理由通知は出されていますが、審査請求から4ヶ月ほどの2020年2月3日に特許査定となっています。これは優先日から1年6ヶ月より早く、このため特許公報の方が公開公報より早く発行されることになりました。なお、早期審査制度といってある条件を満たす場合には優先的に早く審査をしてもらうように求めることができる制度がありますが、本件はそれには該当しないようです。

 後に発行された公開公報は特開2020-057784号で公開日は2020年4月9日です。かつてはこのような場合、公開公報は発行を省略されていたこともありますが、現在は順番が逆転しても発行されるようになっています。

 公開公報の上部、罫線の間には分類記号が示されています。左からIPC、FI、Fタームのテーマコードの順です。この場合、IPCとFIはそれぞれ3つ付与されていますが、記号はすべて一致しています。右側のテーマコードは参考のために記載されており、注意が必要なのは左のFIとは対応しておらず、最初の数字の若い順、アルファベットの若い順、3桁の数字の若い順にソートされています。

 分類はいずれも材料の特徴を示しています。H01L33/32は発光ダイオードの発光領域が窒素を含むことを示し、対応するテーマコードは3番目の5F241です。H01L21/205はエピタキシャル成長のうち、化学的析出を示しており、対応するテーマコードは2番目の5F045です。C23C16/34は化学分野の分類で、分解による化学的析出(CVD)のうち窒化物についての分類で、テーマコードは4K030でこれはCVDに関するものです。なお各テーマコードについて付与されたFタームは下の欄、書き切れない分については最終ページに参考として記されています。

 フロントページの下の欄には【発明の名称】、左側には【要約】が掲載されています。要約は【課題】、【解決手段】、【選択図】からなり、選択図そのものが右側に掲載されます(選択図は該当するものがない場合もあります)。

 2ページ目から【特許請求の範囲】が掲載されます。これに続く【発明の詳細な説明】以下が明細書の内容となり、【0001】からはじまる段落番号が付きます。最初の項目は【技術分野】、【背景技術】です。背景技術は「従来の技術」とされていました。この後、従来はなかった【先行技術文献】が掲載され、【特許文献】と【非特許文献】に分けて複数ある場合はこの例のように番号を付けて記載するようになっています。

 以下が【発明の概要】で【発明が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】、【発明の効果】、【図面の簡単な説明】と続きますが、このうち後2つは以前は明細書の最後にあった項目です。新しい要項ではこれらをこの位置に移動させています。

 つぎに【発明を実施するための形態】、【実施例】で具体的な実験結果やデータが示されます。そして最後に【産業上の利用可能性】、【符号の説明】が置かれます。この後に図面が番号を付けて【図1】、【図2】のように示されます。

 公表公報や再公表特許(公報ではない)もほぼ同様の形態をとっているはずです。

 一方、特許公報のフロントページには要約と選択図は掲載されません。本件では後の図面の前に【要約】が掲載されています。従来はこのようなことはなかったと思います。特許公報の場合はフロントページには審査で使用された文献(拒絶理由通知書で引用された文献)と調査した分野(分類)が表示されます(この件では最後に回されています)。

 特許公報には審査過程で補正された部分にアンダーラインが付されるのが普通です。